🦠 抗菌薬の作用機序による5分類
細菌の構造と各薬の作用点
【細胞壁】ペプチドグリカン合成
← ① 細胞壁合成阻害薬
β-ラクタム系(ペニシリン・セフェム・カルバペネム)
バンコマイシン(グリコペプチド系)
【細胞膜】
← ④ 細胞膜障害薬
ポリミキシン系・コリスチン
【DNA複製・転写】DNAジャイレース・トポイソメラーゼⅣ
← ② DNA合成阻害薬
キノロン系(ニューキノロン系)
【リボソーム】タンパク質合成
← ③ タンパク質合成阻害薬
30S阻害:アミノグリコシド系・テトラサイクリン系
50S阻害:マクロライド系・クロラムフェニコール
【葉酸合成経路】
← ⑤ 葉酸合成阻害薬
スルホンアミド系(DHPS阻害)
トリメトプリム(DHFR阻害)
ヒトの細胞には細胞壁がないため、細胞壁合成阻害薬は選択毒性が高く安全性が高い
| 分類 | 主な薬 | 標的 |
|---|---|---|
| ① 細胞壁合成阻害 | ペニシリン系・セフェム系・カルバペネム系・バンコマイシン | ペプチドグリカン合成 |
| ② DNA合成阻害 | キノロン系(ニューキノロン系) | DNAジャイレース・トポイソメラーゼⅣ |
| ③ タンパク質合成阻害 | マクロライド系・アミノグリコシド系・テトラサイクリン系 | 30Sまたは50Sリボソーム |
| ④ 細胞膜障害 | ポリミキシン系・コリスチン | 細胞膜の透過性変化 |
| ⑤ 葉酸合成阻害 | スルホンアミド系・ST合剤(トリメトプリム) | DHPSまたはDHFR |
① β-ラクタム系(細胞壁合成阻害)
細菌の細胞壁合成の最終段階
ペプチドグリカン前駆体
↓ トランスペプチダーゼ(PBP:ペニシリン結合タンパク)
↓ が架橋反応を触媒
ペプチドグリカン網目構造(強固な細胞壁)完成
【β-ラクタム系の作用】
β-ラクタム環がPBPに不可逆的に結合
↓
トランスペプチダーゼが阻害される
↓
ペプチドグリカン架橋形成↓
↓
細胞壁が脆弱化 → 浸透圧に耐えられない → 菌体溶解
⚠️ β-ラクタマーゼ産生菌は耐性
(β-ラクタム環を酵素で分解 → 薬が無効化される)
ペニシリン系
| 薬物 | 特徴 |
|---|---|
| アモキシシリン | 経口投与可能。広域ペニシリン |
| アンピシリン | 注射用。グラム陽性・陰性両方に有効 |
| ピペラシリン | 広域。緑膿菌にも有効 |
| アモキシシリン/クラブラン酸 | β-ラクタマーゼ阻害薬配合→耐性菌に対応 |
セフェム系(セファロスポリン系)
| 世代 | 特徴 | 代表薬 |
|---|---|---|
| 第1世代 | グラム陽性菌中心 | セファレキシン(経口)・セファゾリン |
| 第2世代 | グラム陽性+一部陰性 | セフメタゾール |
| 第3世代 | グラム陰性菌にも有効 | セフトリアキソン・セフタジジム |
| 第4世代 | 緑膿菌にも有効 | セフェピム |
カルバペネム系
超広域スペクトル
グラム陽性菌・グラム陰性菌・嫌気性菌すべてに有効
β-ラクタマーゼへの安定性が高い
↓
PBPに結合 → 細胞壁合成阻害
⚠️ MRSAには無効(変異PBP2aにはβ-ラクタムが結合できない)
代表薬:イミペネム・シラスタチン、メロペネム、ドリペネム MRSAには無効(カルバペネムもβ-ラクタム系)
バンコマイシン(グリコペプチド系)
【MRSAが β-ラクタム系に耐性な理由】
通常の黄色ブドウ球菌
PBPにβ-ラクタムが結合 → 細胞壁合成阻害 → 感受性あり
MRSA(mecA遺伝子で変異PBP2aを獲得)
PBP2aにはβ-ラクタムが結合できない → 耐性!
【バンコマイシンの作用】(β-ラクタム系とは全く異なる標的)
ペプチドグリカン前駆体の末端
D-Ala-D-Ala に直接結合
↓
トランスグリコシラーゼ・トランスペプチダーゼを立体的に阻害
↓
ペプチドグリカン合成停止 → 細胞壁構造破綻
↓
MRSAにも有効!(β-ラクタマーゼで分解されない)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 経口投与 | 腸管内にとどまる → C. difficile腸炎の治療 |
| 全身感染(MRSA菌血症等) | 静注が必要(経口では全身に届かない) |
| 副作用 | レッドマン症候群(急速投与→ヒスタミン直接遊離→皮膚発赤・掻痒)・腎毒性・耳毒性 |
| モニタリング | TDM(治療薬物モニタリング)が必要 |
レッドマン症候群はIgE非依存性(ヒスタミン直接遊離による偽アレルギー反応) VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)はD-Ala-D-Lac/D-Ala-D-Serに変異して耐性を獲得
② キノロン系(DNA合成阻害)
細菌のDNA複製に必要な酵素
DNAジャイレース(グラム陰性菌の主標的)
トポイソメラーゼⅣ(グラム陽性菌の主標的)
↓
DNA超らせんの弛緩・形成を触媒
↓
DNA複製・転写が正常に進行
【キノロン系の作用】
DNAジャイレースまたはトポイソメラーゼⅣに結合・阻害
↓
DNA切断部位が修復されない(切断-再結合サイクルが停止)
↓
DNA複製・転写阻害 → 殺菌的作用
| 薬物 | 特徴 |
|---|---|
| レボフロキサシン | 呼吸器・尿路感染に汎用。1日1回投与 |
| シプロフロキサシン | 緑膿菌に有効。レジオネラ第一選択 |
| モキシフロキサシン | 嫌気性菌にも有効 |
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| 光線過敏症 | 日光を避ける |
| 小児・妊婦禁忌 | 軟骨形成障害リスク |
| 吸収低下 | Mg²⁺・Al³⁺含有制酸薬とキレート形成 |
| QT延長 | 他のQT延長薬との併用に注意 |
③ タンパク質合成阻害薬
マクロライド系(50Sリボソーム阻害)
細菌のリボソーム(70S = 30S + 50S)
50Sサブユニットの23S rRNA
↓ マクロライド系が結合
ペプチジルトランスフェラーゼ活性↓
↓
ペプチド鎖の伸長が停止
↓
タンパク質合成阻害(静菌的)
| 薬物 | 特徴 |
|---|---|
| エリスロマイシン | 最初のマクロライド。消化器症状多い |
| クラリスロマイシン | H. pylori除菌(PPI+クラリスロマイシン+アモキシシリン) |
| アジスロマイシン | 半減期が長い(週1回療法可能)。細胞内移行性良好 |
非定型肺炎(マイコプラズマ・クラミジア)に有効 副作用:消化器症状(モチリン受容体刺激)・肝障害 CYP3A4阻害(多くの薬物との相互作用注意)
アミノグリコシド系(30Sリボソーム阻害)
30Sサブユニットの16S rRNA
↓ アミノグリコシド系が結合
mRNAの読み取りに誤りが生じる(アンチコドン認識障害)
↓
異常タンパク質が産生される
↓
細胞膜の完全性も障害される → 殺菌的作用
| 薬物 | 特徴 |
|---|---|
| ゲンタマイシン | グラム陰性桿菌。TDMが必要 |
| アミカシン | 広域。耐性菌にも有効 |
| ストレプトマイシン | 結核の治療(第2選択) |
経口投与では吸収されない(すべて注射) 副作用:腎毒性・耳毒性(蝸牛→難聴、前庭→めまい)→ TDM必要
テトラサイクリン系(30Sリボソーム阻害)
30Sサブユニットに結合
↓
アミノアシルtRNAのリボソームへの結合を阻害
↓
ペプチド鎖伸長が停止
↓
タンパク質合成阻害(静菌的)
| 薬物 | 特徴 |
|---|---|
| ミノサイクリン | 脂溶性が高く組織移行性良好 |
| ドキシサイクリン | 1日1〜2回。マラリア予防にも使用 |
マイコプラズマ・クラミジア・リケッチアに有効 小児・妊婦禁忌(歯への沈着・骨発育障害) 牛乳・Ca²⁺含有制酸薬と吸収低下(キレート形成)
🧫 非定型肺炎の原因菌と治療薬
「非定型」=細胞壁が薄い・ない・または細胞内寄生
→ β-ラクタム系(細胞壁合成阻害薬)が無効または効きにくい
| 原因菌 | 特徴 | 第一選択薬 |
|---|---|---|
| レジオネラ属菌 | 温泉・冷却塔に生息。細胞内寄生 | ニューキノロン系(シプロフロキサシン・レボフロキサシン) |
| マイコプラズマ | 細胞壁なし(β-ラクタム無効)。飛沫感染 | マクロライド系・ニューキノロン系 |
| クラミジア肺炎 | 細胞内寄生菌。細胞壁薄い | マクロライド系・テトラサイクリン系 |
レジオネラ=細胞内寄生 → 細胞内移行性の高いニューキノロン系が有効 ペニシリン・セフェム系・バンコマイシンはレジオネラに無効(細胞内に届かない)
国試頻出まとめ
| # | ポイント |
|---|---|
| 1 | β-ラクタム系:PBP(ペニシリン結合タンパク)に不可逆的に結合→トランスペプチダーゼ阻害→ペプチドグリカン架橋↓→細胞壁崩壊 |
| 2 | カルバペネム系(メロペネム等):超広域スペクトル。β-ラクタマーゼ耐性。MRSAには無効(変異PBP2aに結合できない) |
| 3 | バンコマイシン:D-Ala-D-Ala末端に結合→PBPを介さずに細胞壁合成を阻害→MRSAに有効。β-ラクタマーゼで分解されない |
| 4 | バンコマイシン副作用:レッドマン症候群(IgE非依存性。ヒスタミン直接遊離)・腎毒性・耳毒性。経口はC. diff腸炎用、全身感染には静注 |
| 5 | ニューキノロン系:DNAジャイレース(G⁻菌)・トポイソメラーゼⅣ(G⁺菌)を阻害→DNA複製阻害。小児・妊婦禁忌(軟骨障害) |
| 6 | マクロライド系:50Sリボソーム(23S rRNA)結合→タンパク質合成阻害。非定型肺炎・H. pylori除菌に使用。CYP3A4阻害 |
| 7 | アミノグリコシド系:30Sリボソーム(16S rRNA)結合→タンパク質誤読→殺菌的。経口吸収なし(注射のみ)。副作用:腎毒性・耳毒性 |
| 8 | テトラサイクリン系:30Sリボソーム結合。マイコプラズマ・クラミジア・リケッチアに有効。小児・妊婦禁忌(歯着色・骨障害) |
| 9 | レジオネラ肺炎:細胞内寄生→ニューキノロン系(シプロフロキサシン)が第一選択。β-ラクタム系・アミノグリコシド系は無効 |
| 10 | マイコプラズマ肺炎:細胞壁なし→β-ラクタム系無効。マクロライド系またはニューキノロン系を使用 |
📝 国試過去問チェック
第110回 問37(必須問題)
バンコマイシンに関する記述のうち、正しいのはどれか。1つ選べ。
1. バンコマイシンはペニシリン結合タンパク(PBP)に結合して細胞壁合成を阻害する
2. バンコマイシンはβ-ラクタマーゼにより分解されるため、MRSA感染症には無効である
3. バンコマイシンはペプチドグリカン前駆体のD-Ala-D-Ala末端に結合し、細胞壁合成を阻害する
4. バンコマイシンの経口投与は、全身性MRSA感染症の治療に用いられる
5. バンコマイシンの急速静注により起こるレッドマン症候群は、IgE依存性アレルギー反応である
解答と解説を見る
正解:3
3○ バンコマイシンはD-Ala-D-Ala末端に直接結合→トランスグリコシラーゼ・トランスペプチダーゼを立体的に阻害→ペプチドグリカン合成停止→MRSAにも有効。
1✗ バンコマイシンはPBPではなくD-Ala-D-Ala末端に結合する(β-ラクタム系とは作用点が全く異なる)。
2✗ バンコマイシンはβ-ラクタム環を持たないためβ-ラクタマーゼで分解されない → だからMRSAに有効。
4✗ 経口バンコマイシンは腸管内にとどまる(C. difficile腸炎の治療)。全身感染には静注が必要。
5✗ レッドマン症候群はIgE非依存性(ヒスタミン直接遊離による偽アレルギー反応。急速投与が原因)。
第110回 問39(必須問題)
ペプチドグリカン前駆体のペンタペプチド末端のD-アラニル-D-アラニンと結合して細菌の細胞壁合成を阻害するのはどれか。1つ選べ。
1. アミカシン
2. セファゾリン
3. バンコマイシン
4. メロペネム
5. ミカファンギン
解答と解説を見る
正解:3
3○ バンコマイシン(グリコペプチド系)はD-Ala-D-Ala末端に結合→細胞壁合成阻害→MRSA・VRE等に使用。
1✗ アミカシン(アミノグリコシド系)は30Sリボソーム(16S rRNA)に結合→タンパク質合成阻害。
2✗ セファゾリン(第1世代セフェム系)はPBPに結合→β-ラクタム系の細胞壁合成阻害。
4✗ メロペネム(カルバペネム系)もPBPに結合→β-ラクタム系の細胞壁合成阻害。
5✗ ミカファンギン(エキノキャンジン系)はβ-グルカン合成を阻害する抗真菌薬(抗菌薬ではない)。
第110回 問70(必須問題)
レジオネラ肺炎に対して最も有効性が期待できる抗菌薬はどれか。1つ選べ。
1. シプロフロキサシン
2. タゾバクタム・ピペラシリン
3. メロペネム
4. アミカシン
5. バンコマイシン
解答と解説を見る
正解:1
1○ レジオネラは細胞内寄生菌 → 細胞内移行性に優れたニューキノロン系(シプロフロキサシン・レボフロキサシン)が第一選択。
2✗ タゾバクタム・ピペラシリンはβ-ラクタム系(細胞内移行が不十分→細胞内寄生菌に無効)。
3✗ メロペネムもβ-ラクタム系(同様に細胞内移行不十分)。
4✗ アミカシンはアミノグリコシド系(細胞内移行性が低く、細胞内寄生菌に不十分)。
5✗ バンコマイシンはグラム陽性菌(MRSA等)に使用するグリコペプチド系(レジオネラはグラム陰性菌かつ細胞内寄生)。
