抗悪性腫瘍薬の全体分類
抗悪性腫瘍薬
├── 細胞傷害性抗がん薬(従来型)
│ ├── ① アルキル化薬
│ ├── ② 代謝拮抗薬
│ ├── ③ 微小管阻害薬(植物アルカロイド)
│ └── ④ トポイソメラーゼ阻害薬(抗腫瘍抗生物質含む)
├── ⑤ 分子標的薬
│ ├── チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)
│ ├── モノクローナル抗体
│ ├── 免疫チェックポイント阻害薬
│ └── その他(PARP阻害薬・CDK阻害薬など)
└── ⑥ ホルモン療法
├── GnRHアゴニスト/アンタゴニスト
├── 抗エストロゲン薬
└── アロマターゼ阻害薬
細胞周期と薬の作用タイミング
G₁期(DNA合成準備)
↓
S期(DNA合成)← 代謝拮抗薬(メトトレキサート・5-FU・ゲムシタビン)
↓
G₂期(分裂準備)← トポイソメラーゼ阻害薬(イリノテカン・エトポシド)
↓
M期(分裂期)← 微小管阻害薬(ビンクリスチン・パクリタキセル)
↓ → G₁へ
☆ アルキル化薬・分子標的薬・ホルモン療法 → 細胞周期非特異的
| 分類 |
細胞周期特異性 |
代表薬 |
| アルキル化薬 |
非特異的 |
シクロホスファミド・シスプラチン |
| 代謝拮抗薬 |
S期特異的 |
メトトレキサート・5-FU・ゲムシタビン |
| 微小管阻害薬 |
M期特異的 |
ビンクリスチン・パクリタキセル |
| トポイソメラーゼ阻害薬 |
G₂/S期 |
イリノテカン・エトポシド・ドキソルビシン |
| 分子標的薬 |
非特異的 |
イマチニブ・ニボルマブ |
| ホルモン療法 |
非特異的 |
タモキシフェン・リュープロレリン |
① アルキル化薬
機序:DNAのグアニン塩基にアルキル基を付加 → DNA架橋形成 → DNA複製阻害
| 薬物 |
特徴 |
副作用 |
| シクロホスファミド |
肝代謝でアクロレインに変換 → 出血性膀胱炎(メスナで予防) |
出血性膀胱炎・骨髄抑制 |
| イホスファミド |
シクロホスファミドと同様。出血性膀胱炎リスク高 |
出血性膀胱炎(メスナ必須) |
| シスプラチン |
DNA鎖内・鎖間架橋。腎毒性・嘔吐・末梢神経障害 |
腎毒性(大量輸液必要)・聴覚障害 |
| カルボプラチン |
シスプラチンより腎毒性少ない。血小板減少が主 |
骨髄抑制(特に血小板) |
| オキサリプラチン |
大腸がんに使用。**末梢神経障害(冷感)**が特徴的 |
末梢神経障害・アレルギー |
| テモゾロミド |
経口薬。血液脳関門通過 |
脳腫瘍(膠芽腫) |
| ブスルファン |
造血幹細胞移植前処置 |
肺線維症・骨髄抑制 |
シスプラチン vs カルボプラチン:腎毒性はシスプラチン>>カルボプラチン。血小板減少はカルボプラチン>シスプラチン。
② 代謝拮抗薬
機序:正常な代謝産物に似た構造 → 核酸合成に関わる酵素を阻害
葉酸代謝拮抗薬
| 薬物 |
標的酵素 |
特徴 |
| メトトレキサート(MTX) |
ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)阻害 → THF↓ → DNA合成阻害 |
大量療法後はロイコボリン(葉酸)でレスキュー。関節リウマチにも使用 |
| ペメトレキセド |
チミジル酸合成酵素・DHFR・GARFT複合阻害 |
中皮腫・非小細胞肺がん。葉酸・B₁₂の補充が必要 |
ピリミジン代謝拮抗薬
| 薬物 |
標的 |
特徴 |
| フルオロウラシル(5-FU) |
チミジル酸合成酵素阻害 → dTMP↓ |
消化器がん・乳がん。DPD欠損患者で重篤な毒性 |
| カペシタビン |
腸・肝・腫瘍で5-FUに変換されるプロドラッグ |
経口投与可能 |
| ゲムシタビン |
DNA鎖終止+リボヌクレオチド還元酵素阻害 |
膵がん・非小細胞肺がん |
| シタラビン(Ara-C) |
DNAポリメラーゼ阻害 |
急性白血病。髄腔内投与も可 |
プリン代謝拮抗薬
| 薬物 |
標的 |
特徴 |
| メルカプトプリン(6-MP) |
チオイノシン酸(TIMP)→アデニル酸・グアニル酸合成阻害 |
急性白血病。アロプリノール(XO阻害)との相互作用に注意(血中濃度↑) |
| フルダラビン |
DNAポリメラーゼ・リボヌクレオチド還元酵素阻害 |
慢性リンパ性白血病 |
6-MPとアロプリノールの相互作用:アロプリノールがXO阻害 → 6-MPの分解↓ → 6-MP血中濃度↑ → 毒性増強。組み合わせる場合は6-MPを1/4量に減量。
③ 微小管阻害薬
ビンカアルカロイド(チューブリン重合阻害)
機序:チューブリン二量体に結合 → 重合阻害 → 紡錘体形成不全 → M期特異的
| 薬物 |
特徴 |
| ビンクリスチン |
末梢神経障害が強い(脱髄)。骨髄抑制は比較的少 |
| ビンブラスチン |
骨髄抑制が主な副作用 |
| ビノレルビン |
非小細胞肺がん |
タキサン系(チューブリン脱重合阻害)
機序:微小管に結合 → 脱重合阻害(安定化させすぎる)→ 分裂停止 → M期特異的
| 薬物 |
特徴 |
| パクリタキセル |
過敏反応→前投薬(デキサメタゾン・ジフェンヒドラミン)必要。末梢神経障害 |
| ドセタキセル |
浮腫が特徴的な副作用 |
| カバジタキセル |
前立腺がん |
ビンカとタキサンの違い:ビンカ=重合阻害(紡錘体できない)、タキサン=脱重合阻害(壊せない)。どちらもM期特異的。
④ トポイソメラーゼ阻害薬・抗腫瘍抗生物質
トポイソメラーゼI阻害薬
| 薬物 |
特徴 |
| イリノテカン(CPT-11) |
体内でSN-38(活性体)に変換。UGT1A1遺伝子多型で毒性変動。下痢・骨髄抑制 |
| トポテカン |
卵巣がん・小細胞肺がん |
トポイソメラーゼII阻害薬
| 薬物 |
特徴 |
| エトポシド |
小細胞肺がん・悪性リンパ腫 |
| ドキソルビシン(アドリアマイシン) |
DNA嵌入(インターカレーション)+トポII阻害。心毒性(累積投与量制限:550 mg/m²) |
| ダウノルビシン |
急性白血病。心毒性あり |
| ブレオマイシン |
DNA一本鎖・二本鎖切断。肺線維症が重大副作用。G₂期特異的 |
| マイトマイシンC |
DNA架橋(アルキル化様)。膀胱がんの膀胱内注入 |
| アクチノマイシンD |
DNA嵌入→RNAポリメラーゼ阻害。ウィルムス腫瘍 |
⑤ 分子標的薬
チロシンキナーゼ阻害薬(TKI:経口小分子)
| 薬物 |
標的 |
適応 |
| イマチニブ |
BCR-ABL・c-KIT・PDGFR |
CML・GIST |
| ゲフィチニブ |
EGFR(HER1) |
非小細胞肺がん(EGFR変異陽性) |
| エルロチニブ |
EGFR |
非小細胞肺がん・膵がん |
| オシメルチニブ |
EGFR T790M変異 |
耐性NSCLC |
| クリゾチニブ |
ALK・ROS1・MET |
ALK融合遺伝子陽性NSCLC |
| ソラフェニブ |
RAF・VEGFR・PDGFR(マルチキナーゼ) |
肝がん・腎がん・甲状腺がん |
| スニチニブ |
VEGFR・PDGFR・c-KIT(マルチキナーゼ) |
腎がん・GIST |
| エベロリムス |
mTOR阻害 |
腎がん・乳がん |
| オラパリブ |
PARP阻害(合成致死) |
BRCA変異の乳がん・卵巣がん |
モノクローナル抗体(末尾が-mab)
| 薬物 |
標的 |
適応 |
| トラスツズマブ(ハーセプチン) |
HER2(ErbB2)細胞外ドメイン |
HER2陽性乳がん・胃がん |
| セツキシマブ |
EGFR細胞外ドメイン |
大腸がん(KRAS野生型)・頭頸部がん |
| ベバシズマブ |
VEGF-A → 血管新生阻害 |
大腸がん・肺がん・卵巣がん |
| リツキシマブ |
CD20(B細胞) |
B細胞性リンパ腫・CLL |
| オビヌツズマブ |
CD20(リツキシマブより強力) |
CLL |
| ゲムツズマブ |
CD33(骨髄芽球)→薬物複合体 |
AML |
免疫チェックポイント阻害薬
正常: がん細胞PD-L1 → T細胞PD-1 に結合 → T細胞が抑制される(免疫逃避)
薬物: PD-1またはPD-L1をブロック → T細胞が活性化 → がん細胞を攻撃
| 薬物 |
標的 |
特徴 |
| ニボルマブ(オプジーボ) |
PD-1(T細胞上) |
悪性黒色腫・肺がん・腎がんなど |
| ペムブロリズマブ(キイトルーダ) |
PD-1 |
多くのがん種(MSI-H腫瘍) |
| アテゾリズマブ |
PD-L1(がん細胞上) |
肺がん・膀胱がん |
| デュルバルマブ |
PD-L1 |
肺がん |
| イピリムマブ(ヤーボイ) |
CTLA-4(T細胞上) |
悪性黒色腫 |
国試ポイント:ニボルマブはT細胞上のPD-1に結合(がん細胞のPD-L1ではない)。irAE(免疫関連有害事象)として間質性肺炎・大腸炎・内分泌障害が起こる。
⑥ ホルモン療法
前立腺がん治療
| 薬物 |
分類 |
機序 |
| リュープロレリン・ゴセレリン |
GnRHアゴニスト |
持続投与→GnRH受容体ダウンレギュレーション→LH↓→テストステロン↓ |
| デガレリクス |
GnRHアンタゴニスト |
GnRH受容体を直接遮断。フレアアップなし |
| ビカルタミド |
抗アンドロゲン薬 |
アンドロゲン受容体拮抗 |
GnRHアゴニストのフレアアップ現象:投与初期に一時的にLH・テストステロンが上昇→症状悪化。抗アンドロゲン薬を前投与して予防。
乳がん治療(ホルモン受容体陽性)
| 薬物 |
分類 |
特徴 |
| タモキシフェン |
抗エストロゲン薬(SERM) |
エストロゲン受容体拮抗。子宮内膜がんのリスク↑(子宮への部分作動) |
| フルベストラント |
抗エストロゲン薬(SERD) |
エストロゲン受容体分解促進。純粋な拮抗薬 |
| アナストロゾール・レトロゾール |
アロマターゼ阻害薬 |
閉経後女性で使用。骨粗しょう症が副作用 |
主な副作用と対策まとめ
| 副作用 |
主な原因薬 |
対策 |
| 骨髄抑制 |
ほぼ全ての細胞傷害性薬 |
G-CSF(フィルグラスチム)・輸血 |
| 悪心・嘔吐 |
シスプラチン・シクロホスファミド |
5-HT₃拮抗薬・NK₁拮抗薬・デキサメタゾン |
| 心毒性 |
ドキソルビシン・ダウノルビシン |
累積投与量の管理・デクスラゾキサン |
| 腎毒性 |
シスプラチン |
大量補液・アミフォスチン |
| 出血性膀胱炎 |
シクロホスファミド・イホスファミド |
メスナ(アクロレイン解毒) |
| 肺線維症 |
ブレオマイシン・ブスルファン |
投与量制限・定期的な肺機能検査 |
| 末梢神経障害 |
ビンクリスチン・パクリタキセル・オキサリプラチン |
対症療法 |
| 脱毛 |
ドキソルビシン・パクリタキセル |
頭皮冷却(効果限定的) |
| 下痢 |
イリノテカン(急性・遅発性) |
急性:アトロピン、遅発性:ロペラミド |
| irAE |
免疫チェックポイント阻害薬 |
ステロイド投与 |
国試過去問チェック
第112回薬剤師国家試験 問XX(予想問題)
抗悪性腫瘍薬の分類と作用機序に関する組み合わせで正しいのはどれか。
- パクリタキセル — チューブリン重合を阻害してM期に作用する
- イリノテカン — トポイソメラーゼIIを阻害してDNA切断を引き起こす
- シクロホスファミド — 体内でアクロレインに代謝され、出血性膀胱炎を起こす
- ビンクリスチン — 微小管を安定化させて分裂を阻害する
- メトトレキサート — チミジル酸合成酵素を阻害してDNA合成を抑制する
正解:3
解説:
- 1:✗ パクリタキセルはチューブリン脱重合を阻害(安定化)→ 重合阻害はビンクリスチン
- 2:✗ イリノテカン(SN-38)はトポイソメラーゼI阻害(IIではない)
- 3:◯ シクロホスファミド → 肝でアクロレイン生成 → 膀胱粘膜障害。メスナで予防
- 4:✗ ビンクリスチンは微小管の重合を阻害(安定化させるのはパクリタキセル)
- 5:✗ メトトレキサートは**ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)**を阻害(チミジル酸合成酵素阻害は5-FU)