🤢 悪心・嘔吐のメカニズム
悪心・嘔吐の主な刺激経路
【経路①】化学受容器引金帯(CTZ)
抗がん剤・オピオイド・尿毒症毒素
↓
CTZ(第4脳室底付近・BBBの外)の
D₂・5-HT₃・NK₁受容体を刺激
↓
嘔吐中枢へ信号
【経路②】末梢(消化管)
抗がん剤が消化管粘膜を刺激
↓
腸クロム親和性細胞からセロトニン(5-HT)放出
↓
求心性迷走神経の5-HT₃受容体を刺激
↓
嘔吐中枢へ信号
【経路③】前庭器官
乗り物酔い・めまい
↓
H₁・M受容体を刺激
↓
嘔吐中枢へ信号
【嘔吐中枢(延髄)】
↑ 各経路からの入力を統合
NK₁・H₁・M受容体が関与
↓
嘔吐反射
| 経路 | 刺激物 | 主な受容体 |
|---|---|---|
| 化学受容器引金帯(CTZ) | 抗がん剤・オピオイド・尿毒症毒素 | D₂・5-HT₃・NK₁ |
| 末梢(消化管) | 消化管刺激・抗がん剤 | 5-HT₃(求心性迷走神経) |
| 嘔吐中枢(延髄) | 各経路からの入力を統合 | NK₁・H₁・M受容体 |
| 前庭器官 | 乗り物酔い・めまい | H₁・M受容体 |
| 大脳皮質 | 精神的ストレス・不安 | — |
抗がん剤による嘔吐(CINV):急性期(24時間以内)は5-HT₃が主役、遅発期(24〜120時間)はNK₁が主役
制吐薬の4系統
① NK₁受容体拮抗薬
遅発性CINV(24〜120時間)の主な経路
抗がん剤 → サブスタンスP(SP)放出
↓
嘔吐中枢・CTZのNK₁受容体(ニューロキニン1受容体)に結合
↓
嘔吐反射(遅発性)
【アプレピタントの作用】
NK₁受容体を選択的に遮断
↓
SPとNK₁受容体の結合を阻害
↓
遅発性嘔吐を抑制
CYP3A4の阻害薬
→ デキサメタゾン等の血中濃度↑(用量調整が必要)
| 薬物 | 特徴 |
|---|---|
| アプレピタント | 経口。遅発性CINVの予防に必須。CYP3A4の阻害薬(デキサメタゾン等の血中濃度↑) |
| ホスアプレピタント | アプレピタントのプロドラッグ(静注)。1日目の1回投与でアプレピタント3日分に相当 |
② 5-HT₃受容体拮抗薬
急性CINV(〜24時間)の主な経路
抗がん剤 → 消化管粘膜から5-HT放出
↓
求心性迷走神経・CTZの5-HT₃受容体を刺激 → 嘔吐中枢へ
【5-HT₃受容体拮抗薬の作用】
5-HT₃受容体をブロック
↓
急性CINVの予防(第一選択)
副作用:便秘・頭痛・QT延長
| 薬物 | 特徴 |
|---|---|
| オンダンセトロン | 標準的な5-HT₃拮抗薬 |
| グラニセトロン | 同上 |
| パロノセトロン | 半減期が長い(約40時間)→ 遅発性にも有効 |
③ ドパミンD₂受容体拮抗薬
CTZのD₂受容体をブロック
↓
嘔吐反射抑制
+
消化管のD₂受容体も遮断
↓
消化管運動促進(胃排出↑)
【メトクロプラミドの注意点】
血液脳関門(BBB)を通過する
↓
中枢のD₂受容体も遮断
↓
錐体外路症状(パーキンソン症状・アカシジア)のリスク
【ドンペリドン】
BBBを通過しにくい
↓
錐体外路症状が少ない
| 薬物 | 特徴 |
|---|---|
| メトクロプラミド | BBBを通過 → 錐体外路症状(パーキンソン症状・アカシジア)のリスクあり |
| ドンペリドン | BBBを通過しにくい → 錐体外路症状が少ない |
④ コルチコステロイド
デキサメタゾンが代表。制吐機序の詳細は不明(プロスタグランジン合成抑制が一説)。単独でも有効だが、他の制吐薬との相乗効果が重要。
📊 CINVの標準的予防レジメン
| 催吐リスク | 1日目 | 2〜3日目 | 4〜5日目 |
|---|---|---|---|
| 高度(シスプラチン等) | NK₁拮抗薬+5-HT₃拮抗薬+デキサメタゾン | NK₁拮抗薬+デキサメタゾン | デキサメタゾン |
| 中等度 | 5-HT₃拮抗薬+デキサメタゾン | — | — |
高度催吐性レジメン(シスプラチン等)ではNK₁拮抗薬+5-HT₃拮抗薬+デキサメタゾンの3剤併用が標準
🔧 その他の制吐薬
| 薬名 | 分類・機序 | 適応・特徴 |
|---|---|---|
| プロメタジン | フェノチアジン系・H₁受容体遮断(D₂遮断作用も) | 乗り物酔い・術後嘔吐。強い鎮静・抗コリン作用 |
| ジフェンヒドラミン | H₁拮抗薬 | 乗り物酔い・術後嘔吐 |
| スコポラミン | 抗コリン薬(M拮抗) | 乗り物酔い(貼付剤) |
| プロクロルペラジン | フェノチアジン系(D₂拮抗) | 一般的な悪心・嘔吐 |
| オランザピン | D₂・5-HT₂・H₁拮抗 | 突出性・難治性CINV |
| ナビロン | カンナビノイド受容体作動薬 | 難治性CINV |
国試頻出まとめ
| # | ポイント |
|---|---|
| 1 | CTZはBBBの外側にある→血中の毒素・抗がん剤に反応。D₂・5-HT₃・NK₁受容体が関与 |
| 2 | CINV急性期(〜24時間):5-HT₃が主役 → 5-HT₃受容体拮抗薬が第一選択 |
| 3 | CINV遅発期(24〜120時間):NK₁が主役 → NK₁受容体拮抗薬(アプレピタント)が必須 |
| 4 | アプレピタント:NK₁受容体拮抗薬。CYP3A4阻害薬→デキサメタゾン等の血中濃度**↑**(誘導ではない!) |
| 5 | ホスアプレピタント:アプレピタントのプロドラッグ(静注用)。1回投与で3日分に相当 |
| 6 | パロノセトロン:5-HT₃拮抗薬の中で半減期が最も長い(約40時間)→ 遅発性にも有効 |
| 7 | メトクロプラミド:D₂拮抗薬。BBBを通過→錐体外路症状のリスク |
| 8 | ドンペリドン:D₂拮抗薬。BBBを通過しにくい→錐体外路症状が少ない |
| 9 | 高度催吐性CINV予防:NK₁拮抗薬+5-HT₃拮抗薬+デキサメタゾンの3剤併用 |
| 10 | 乗り物酔い:H₁拮抗薬(プロメタジン・ジフェンヒドラミン)・M拮抗薬(スコポラミン)が有効 |
📝 国試過去問チェック
第108回 問162(一般問題)
制吐薬に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1. メトクロプラミドは、化学受容器引き金帯(CTZ)のオピオイドμ受容体を遮断する
2. パロノセトロンは、消化管の求心性迷走神経終末やCTZのセロトニン5-HT₃受容体を遮断する
3. オキセサゼインは、胃粘膜の知覚神経のニコチン性アセチルコリン受容体を遮断する
4. プロメタジンは、胃壁細胞のガストリン受容体を遮断する
5. アプレピタントは、嘔吐中枢やCTZのタキキニンNK₁受容体を遮断する
解答と解説を見る
正解:2・5
2○ パロノセトロンは5-HT₃受容体遮断薬(第2世代。受容体との結合が長時間持続)。
5○ アプレピタントはNK₁受容体拮抗薬(サブスタンスPとNK₁受容体の結合を阻害→遅発性悪心・嘔吐に有効)。
1✗ メトクロプラミドはオピオイドμ受容体ではなくドパミンD₂受容体を遮断(CTZのD₂遮断→制吐)。
3✗ オキセサゼインは局所麻酔薬的機序(Na⁺チャネル遮断)で胃粘膜の知覚神経を麻酔(ニコチン性受容体遮断ではない)。
4✗ プロメタジンはガストリン受容体ではなくヒスタミンH₁受容体を遮断。
第110回 問43(必須問題)
アプレピタントに関する記述のうち、正しいのはどれか。1つ選べ。
1. アプレピタントはセロトニン5-HT₃受容体を遮断することで制吐作用を示す
2. アプレピタントは抗がん剤による急性嘔吐(投与後24時間以内)の予防に特に有効である
3. アプレピタントはサブスタンスPのNK₁受容体への結合を阻害し、遅発性嘔吐を予防する
4. アプレピタントはCYP3A4を誘導するため、他の薬物の血中濃度を下げる
5. ホスアプレピタントはアプレピタントよりも半減期が長く、5日間継続投与が必要である
解答と解説を見る
正解:3
3○ サブスタンスPが結合するNK₁受容体を遮断→遅発性嘔吐の予防。
1✗ アプレピタントは5-HT₃受容体ではなくNK₁受容体拮抗薬。
2✗ アプレピタントは遅発性CINV(24〜120時間)の予防が主な適応(急性期は5-HT₃拮抗薬が主役)。
4✗ アプレピタントはCYP3A4の阻害薬→他の薬物(デキサメタゾンなど)の血中濃度を上げる(下げるではない)。
5✗ ホスアプレピタントはアプレピタントのプロドラッグ(静注用)。1日目の1回投与でアプレピタント3日分に相当。
