統合失調症とドパミン仮説
統合失調症は脳内ドパミン神経系の過活動が中心病態と考えられています(ドパミン仮説)。
| 脳部位 | ドパミン経路 | 異常の方向 | 関連症状 |
|---|---|---|---|
| 中脳辺縁系 | 辺縁系路 | 過活動↑ | 陽性症状(幻覚・妄想) |
| 中脳皮質系 | 皮質路 | 低活動↓ | 陰性症状(意欲低下・感情鈍麻) |
抗精神病薬の基本戦略:D₂受容体を遮断して中脳辺縁系の過活動を抑える
第一世代抗精神病薬(定型・従来型)
作用:ドパミンD₂受容体を強力に遮断
| 薬剤 | 力価 | 特徴 |
|---|---|---|
| クロルプロマジン | 低力価 | 最初の抗精神病薬・鎮静強い・フェノチアジン系 |
| ハロペリドール | 高力価 | EPS(錐体外路症状)が出やすい・ブチロフェノン系 |
| スルピリド | 低力価 | 低用量で抗うつ・高用量で抗精神病 |
問題点: D₂受容体を脳全体で遮断するため、目的外の経路も遮断 → 副作用多い
第二世代抗精神病薬(非定型)
作用:D₂受容体遮断 + 5-HT₂A受容体遮断の二重遮断(SDA: Serotonin-Dopamine Antagonist)
5-HT₂A遮断 → 中脳皮質系のドパミン遊離↑ → 陰性症状改善・EPS軽減
| 薬剤 | 分類 | 特徴 |
|---|---|---|
| リスペリドン | SDA | D₂+5-HT₂A遮断。最も使われる非定型薬。高プロラクチン血症あり |
| オランザピン | MARTA | 多受容体遮断。体重増加・糖尿病に注意。糖尿病患者には禁忌 |
| クエチアピン | MARTA | 鎮静強い・糖尿病禁忌 |
| アリピプラゾール | DSS | D₂部分作動薬(ドパミン安定薬)。高プロラクチン血症が出にくい |
| クロザピン | 多受容体 | 治療抵抗性に有効。無顆粒球症(定期的血液検査必須) |
高プロラクチン血症のしくみ(問28 重要)
問28 解答:リスペリドンが高プロラクチン血症を起こす機序は「下垂体でのD₂受容体遮断」
通常の制御:
- ドパミン → 下垂体前葉のD₂受容体 → プロラクチン分泌抑制
D₂受容体遮断時:
- ドパミンの抑制が外れる → プロラクチン分泌が増加
- 女性:乳汁分泌・月経異常
- 男性:女性化乳房・性機能障害
アリピプラゾールはD₂受容体の部分作動薬なので、ドパミン様の作用を残し高プロラクチン血症が出にくい。
錐体外路症状(EPS)の種類
D₂受容体遮断 → 線条体(黒質線条体路)のドパミン↓ → EPS
| 症状 | 特徴 | 出現時期 |
|---|---|---|
| パーキンソン症状 | 振戦・筋強剛・寡動 | 投与後数週 |
| アカシジア | じっとしていられない不安感 | 投与後数週 |
| 急性ジストニア | 筋肉の不随意収縮(首・眼) | 投与後数日以内 |
| 遅発性ジスキネジア | 口・舌・四肢の不随意運動 | 長期投与後(不可逆的になりやすい) |
EPSの治療: 抗コリン薬(ビペリデン等)を追加 → 線条体でのACh活動を抑える
第一世代 > 第二世代 でEPS頻度が高い(D₂遮断が強いほどEPSが出やすい)
悪性症候群(Neuroleptic Malignant Syndrome)
最も重篤な副作用。**発熱(40℃超)・筋強剛・意識障害・自律神経症状(発汗・頻脈)**の4徴
機序: D₂受容体の急激な遮断 → 体温調節中枢・筋肉代謝の異常 処置: 抗精神病薬の即時中止・冷却・ダントロレン(筋弛緩)・ブロモクリプチン(ドパミン作動薬)
ドパミン経路と副作用の対応
| ドパミン経路 | D₂遮断の結果 | 臨床的意義 |
|---|---|---|
| 中脳辺縁系 | 陽性症状↓ | 治療効果 |
| 中脳皮質系 | 陰性症状悪化の可能性 | 第一世代の問題点 |
| 黒質線条体系 | EPS | 副作用 |
| 下垂体漏斗系 | 高プロラクチン血症 | 副作用 |
ペロスピロン(ルーラン®)
- SDA(セロトニン・ドパミン拮抗薬)型の非定型抗精神病薬
- D2受容体遮断(陽性症状改善)
- 5-HT1A受容体部分作動(陰性症状・不安改善。5-HT1A刺激が中脳辺縁系のドパミン調節に関与)
- 5-HT2A受容体遮断(EPS↓・睡眠改善)
- EPSが比較的少ない
第108回 国試過去問チェック(抗精神病薬)
第108回薬剤師国家試験 問153(一般問題・薬理)
統合失調症治療薬に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- ハロペリドールは、中脳辺縁系におけるドパミンD2受容体を遮断することで、統合失調症の陽性症状を改善する
- アリピプラゾールは、黒質線条体ドパミン神経系を抑制することで、統合失調症の陰性症状を改善する
- オランザピンは、セロトニン5-HT2A受容体を刺激することで、体重増加を起こす
- ペロスピロンは、セロトニン5-HT1A受容体を遮断することで、抗不安作用を示す
- クロルプロマジンは、ヒスタミンH1受容体およびアドレナリンα1受容体を遮断することで、鎮静作用を示す
正解:1と5
解説:
- 選択肢1:◯ ハロペリドールは定型抗精神病薬。中脳辺縁系のD2遮断→幻覚・妄想(陽性症状)改善
- 選択肢2:✗ アリピプラゾールはD2受容体の部分作動薬(遮断ではない)。黒質線条体を「抑制」するのではなく部分的に刺激することでドパミン系を調整し陰性症状も改善
- 選択肢3:✗ オランザピンは5-HT2A受容体を遮断する(刺激ではない)。体重増加は5-HT2C遮断・H1遮断・M1遮断などによる食欲増加が主因
- 選択肢4:✗ ペロスピロンは5-HT1A受容体を遮断ではなく部分作動(部分アゴニスト)として抗不安作用を示す
- 選択肢5:◯ クロルプロマジン(フェノチアジン系定型)はH1遮断(眠気)+α1遮断(起立性低血圧)→鎮静作用
第109回 国試過去問チェック
問28(第109回 必須問題)
リスペリドンが高プロラクチン血症を引き起こす機序はどれか。
- 下垂体でのドパミンD₂受容体遮断 → 正解
- 下垂体前葉ではドパミンがD₂受容体を介してプロラクチン分泌を抑制している
- D₂受容体が遮断されるとこの抑制が外れ → プロラクチン↑
第111回 国試過去問チェック
問172(第111回 一般問題)
抗精神病薬の副作用に関する記述として正しいのはどれか。
- アリピプラゾールはD₂受容体部分作動薬のため高プロラクチン血症が出にくい → 正解
- オランザピン・クエチアピンは糖尿病患者に禁忌(血糖値上昇リスク)
- 悪性症候群は抗精神病薬の急激な用量変化で起こりうる
