🦠 抗ウイルス薬の作用点マップ
【感染症別・作用機序の概要】
ヘルペスウイルス
→ アシクロビル・バラシクロビル(DNAポリメラーゼ阻害)
→ アメナメビル(ヘリカーゼ・プライマーゼ阻害)
→ ホスカルネット(ピロリン酸結合部位阻害)
インフルエンザ
→ オセルタミビル・ザナミビル・ラニナミビル(ノイラミニダーゼ阻害)
→ バロキサビル(キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害)
→ アマンタジン(M₂タンパク阻害:A型のみ)
HIV
→ NRTI・NNRTI(逆転写酵素阻害)
→ インテグラーゼ阻害薬(ゲノム組み込み阻害)
→ プロテアーゼ阻害薬(ウイルスタンパク切断阻害)
→ マラビロク(CCR5拮抗:侵入阻害)
C型肝炎(HCV)
→ ソホスブビル(NS5B RNAポリメラーゼ阻害)
→ レジパスビル(NS5A阻害)
→ グレカプレビル(NS3/4Aプロテアーゼ阻害)
ヘルペスウイルス治療薬
【アシクロビルの選択毒性のしくみ】
ヘルペスウイルスが細胞に感染
↓
ウイルス固有のチミジンキナーゼ(TK)がアシクロビルをリン酸化(1回目)
↓
宿主細胞のキナーゼがさらにリン酸化(2・3回目)
↓
アシクロビル三リン酸(活性体)が生成
↓
dGTPと競合してウイルスDNAポリメラーゼを阻害
↓
ウイルスDNA鎖伸長が停止 → ウイルス増殖抑制
━━━ 選択毒性の理由 ━━━
非感染細胞にはウイルスTKがない
↓
アシクロビルが活性化されない
↓
宿主細胞への毒性が低い
| 薬物 | 活性化酵素 | 標的 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| アシクロビル | ウイルスTK → 宿主キナーゼ | DNAポリメラーゼ | HSV・VZV。経口・外用・点滴 |
| バラシクロビル | (アシクロビルのプロドラッグ) | DNAポリメラーゼ | バイオアベイラビリティ↑ |
| ガンシクロビル | CMV UL97キナーゼ | DNAポリメラーゼ | CMV網膜炎(HIV合併等) |
| アメナメビル | 不要(直接作用) | ヘリカーゼ・プライマーゼ複合体 | TK欠損変異ウイルスにも有効 |
| ホスカルネット | 不要 | DNAポリメラーゼのピロリン酸結合部位 | アシクロビル耐性HSV・CMVに使用 |
アメナメビルはチミジンキナーゼによる活性化が不要 → TK欠損耐性ウイルスにも有効 ホスカルネットはリン酸化不要でDNAポリメラーゼのピロリン酸結合部位に直接結合
インフルエンザ治療薬
【ノイラミニダーゼ阻害薬の作用】
インフルエンザウイルスが感染細胞内で増殖
↓
新しいウイルス粒子が細胞表面に出芽
↓
ノイラミニダーゼがシアル酸を切断 → ウイルスが細胞から遊離・拡散
↓ ★オセルタミビル・ザナミビル・ラニナミビル:ノイラミニダーゼを阻害★
ウイルスが細胞表面に留まり隣の細胞に拡散できない
↓
感染拡大が抑制される
| 薬物 | 作用機序 | 特徴 |
|---|---|---|
| オセルタミビル | ノイラミニダーゼ阻害 | 経口薬。発症48時間以内に投与 |
| ザナミビル | ノイラミニダーゼ阻害 | 吸入薬 |
| ラニナミビル | ノイラミニダーゼ阻害 | 1回吸入で終了 |
| バロキサビル | キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害 | 1回経口投与。新機序 |
| アマンタジン | M₂タンパク阻害(脱殻阻害) | A型のみ。耐性多い |
アマンタジンはA型インフルエンザのM₂イオンチャネルを阻害(B型には無効) 発症後48時間以降の投与では効果が期待できない(ノイラミニダーゼ阻害薬)
HIV治療薬(抗レトロウイルス薬)
【HIVのライフサイクルと薬の作用点】
HIVウイルスが宿主細胞(CD4陽性T細胞)に接近
↓
gp120がCD4受容体・CCR5(またはCXCR4)に結合
↓ ★マラビロク(CCR5拮抗薬):CCR5を遮断し侵入を阻害★
ウイルスと細胞膜が融合 → HIVが侵入
↓
ウイルスRNAを逆転写酵素がDNAに逆転写
↓ ★NRTI・NNRTI(逆転写酵素阻害薬):逆転写を阻害★
二本鎖DNAが核内へ
↓
インテグラーゼが宿主ゲノムにウイルスDNAを組み込み
↓ ★ラルテグラビル・ドルテグラビル(インテグラーゼ阻害薬):組み込みを阻害★
プロウイルスとして転写・翻訳 → 前駆タンパク質
↓
プロテアーゼが前駆タンパク質を切断 → 成熟ウイルス粒子
↓ ★ダルナビル等(プロテアーゼ阻害薬):切断・成熟化を阻害★
新しいウイルス粒子が放出
HIV治療は**異なる作用点の薬を3剤以上組み合わせる多剤併用療法(ART)**が基本(耐性防止のため)。
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
| 薬物 | 特徴 |
|---|---|
| ジドブジン(AZT) | 最初のHIV治療薬。骨髄抑制に注意 |
| テノホビル | B型肝炎にも有効 |
| エムトリシタビン | テノホビルとの配合剤として使用 |
| アバカビル | HLA-B*5701陽性患者では重篤な過敏症リスク → 投与前に遺伝子検査 |
アバカビル:HLA-B*5701陽性患者では重篤な過敏症反応リスク → 投与前に遺伝子検査が必須
非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
| 薬物 | 特徴 |
|---|---|
| エファビレンツ | 精神神経症状(夢・幻覚)の副作用 |
| リルピビリン | 副作用が少ない |
NNRTIはリン酸化不要。逆転写酵素の活性中心近傍(アロステリック部位)に直接結合して阻害
インテグラーゼ阻害薬
| 薬物 | 特徴 |
|---|---|
| ラルテグラビル | インテグラーゼ阻害薬の先駆け |
| ドルテグラビル | 耐性出現が少ない。現在の標準レジメンの中心 |
プロテアーゼ阻害薬(PI)・侵入阻害薬
| 薬物 | 機序 | 特徴 |
|---|---|---|
| ダルナビル | HIVプロテアーゼ阻害 | リトナビルと併用(CYP阻害で血中濃度↑) |
| マラビロク | 宿主細胞膜上のCCR5に結合 → HIVの細胞内侵入を阻害 | CCR5指向性HIVのみ有効 |
マラビロクはCCR5指向性(R5型)HIVにのみ有効。CXCR4指向性(X4型)には無効
C型肝炎治療薬(DAA)
【HCV複製サイクルと薬の作用点】
HCVが肝細胞に感染
↓
ウイルスRNAが翻訳 → 前駆タンパク質(ポリタンパク)
↓
NS3/4Aプロテアーゼが前駆タンパク質を切断・成熟化
↓ ★グレカプレビル(NS3/4Aプロテアーゼ阻害):切断・成熟化を阻害★
NS5Aタンパク質が複製複合体(メンブレンウェブ)を形成
↓ ★レジパスビル(NS5A阻害):複製複合体の形成を阻害★
NS5B(RNA依存性RNAポリメラーゼ)がウイルスRNAを複製
↓ ★ソホスブビル(NS5B阻害:プロドラッグ):RNA複製を阻害★
新しいウイルス粒子が形成・放出
| 薬物 | 作用機序 | 特徴 |
|---|---|---|
| ソホスブビル | NS5B RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害(プロドラッグ) | レジパスビルと配合剤あり |
| レジパスビル | NS5A阻害(ウイルス複製・アセンブリ抑制) | ソホスブビルと配合剤 |
| グレカプレビル | NS3/4Aプロテアーゼ阻害 | ピブレンタスビルとの配合剤 |
現在のC型肝炎治療はDAA(直接作用型抗ウイルス薬)の経口多剤併用が標準。治癒率95%以上
国試頻出まとめ
| # | ポイント |
|---|---|
| 1 | アシクロビル:ウイルスTK→リン酸化活性化→dGTP競合→DNAポリメラーゼ阻害。非感染細胞にTKなし→選択毒性の理由 |
| 2 | アメナメビル:TKによる活性化不要。ヘリカーゼ・プライマーゼ複合体を阻害。TK欠損耐性ウイルスにも有効 |
| 3 | ガンシクロビル:CMVのUL97キナーゼで活性化→DNAポリメラーゼ阻害。CMV網膜炎に使用 |
| 4 | ホスカルネット:リン酸化不要。DNAポリメラーゼのピロリン酸結合部位に結合。アシクロビル耐性ウイルスに使用 |
| 5 | オセルタミビル等(ノイラミニダーゼ阻害薬):ウイルスの細胞からの遊離・拡散を阻害。発症48時間以内に投与 |
| 6 | NRTI(ジドブジン・テノホビル等):感染細胞内でリン酸化→活性体→RNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)阻害 |
| 7 | NNRTI(エファビレンツ等):リン酸化不要。逆転写酵素のアロステリック部位に直接結合して阻害 |
| 8 | ラルテグラビル・ドルテグラビル(インテグラーゼ阻害薬):HIVのDNAが宿主ゲノムへの組み込みを阻害 |
| 9 | マラビロク(CCR5拮抗薬):宿主細胞のCCR5に結合→HIVの侵入阻害。CCR5指向性HIVのみ有効 |
| 10 | アバカビル(NRTI):HLA-B*5701陽性患者では重篤な過敏症リスク→投与前に遺伝子検査必須 |
📝 国試過去問チェック
第107回 問166(一般問題)
抗ウイルス薬に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1. アメナメビルは、ヘリカーゼ・プライマーゼ複合体のDNA依存性ATPase活性を阻害してmRNA合成を阻害する
2. ガンシクロビルは、CMVのチミジンキナーゼで一リン酸化後→RNAポリメラーゼを阻害する
3. オセルタミビルは、インフルエンザのノイラミニダーゼを阻害してウイルス増殖を抑制する
4. ホスカルネットは、CMVのRNAポリメラーゼのピロリン酸結合部位に結合してRNA合成を阻害する
5. アシクロビルは、三リン酸化体でVZV感染細胞内でdGTPと競合してDNAポリメラーゼを阻害する
解答と解説を見る
正解:3・5
3○ オセルタミビル=ノイラミニダーゼ阻害 → ウイルスの細胞からの遊離を阻害。
5○ アシクロビル=TK→三リン酸化 → dGTP競合 → DNAポリメラーゼ阻害。
1✗ アメナメビルはヘリカーゼ・プライマーゼ阻害は正しいが、「mRNA合成阻害」ではなくDNA複製阻害が正確。
2✗ ガンシクロビルはCMVのUL97キナーゼで活性化 → DNAポリメラーゼ阻害(RNAポリメラーゼではない)。
4✗ ホスカルネットはDNAポリメラーゼのピロリン酸結合部位に結合(RNA合成ではない)。
第109回 問168(一般問題)
HIV感染症治療薬に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1. エムトリシタビンは、HIV感染細胞内でリン酸化されて活性体となり、HIVのRNA依存性DNAポリメラーゼを阻害する
2. マラビロクは、RNA依存性DNAポリメラーゼの活性中心近傍に結合して、酵素活性を阻害する
3. ラルテグラビルは、HIVインテグラーゼを阻害して、ウイルスDNAの宿主DNAへの組込みを抑制する
4. アバカビルは、HIVプロテアーゼを阻害して、ウイルスタンパク質の産生を抑制する
5. エファビレンツは、宿主の細胞膜上のCCR5に結合して、HIVの細胞内への侵入を抑制する
解答と解説を見る
正解:1・3
1○ エムトリシタビンはNRTI。感染細胞内でリン酸化 → 活性体 → RNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)阻害。
3○ ラルテグラビルはインテグラーゼ阻害薬 → ウイルスDNAの宿主ゲノムへの組み込みを阻害。
2✗ マラビロクはRNAポリメラーゼ阻害ではなく、CCR5(細胞膜上のケモカイン受容体)に結合してHIVの侵入を阻害する。
4✗ アバカビルはプロテアーゼ阻害薬ではなくNRTI(核酸系逆転写酵素阻害薬)。
5✗ エファビレンツはCCR5には結合しない。NNRTI(逆転写酵素のアロステリック部位に結合)。
第111回 問39(必須問題)
感染細胞内でリン酸化されて活性体となりウイルスDNAポリメラーゼを阻害して、ウイルスの増殖を抑制するのはどれか。1つ選べ。
1. アシクロビル
2. ラルテグラビル
3. レジパスビル
4. アマンタジン
5. ソホスブビル
解答と解説を見る
正解:1
1○ アシクロビル=感染細胞内でウイルスTKによりリン酸化 → 活性体がウイルスDNAポリメラーゼを阻害。
2✗ ラルテグラビルはHIVのインテグラーゼ阻害(リン酸化は関係ない)。
3✗ レジパスビルはHCV NS5A阻害。
4✗ アマンタジンはインフルエンザAのM₂タンパク阻害(脱殻阻害)。
5✗ ソホスブビルはHCV NS5B RNAポリメラーゼ阻害(標的がDNAポリメラーゼではない)。
