DDSとは
**DDS(Drug Delivery System:薬物送達システム)**とは、薬物を必要な部位に・必要な量だけ・必要な時間にわたって届ける製剤技術の総称です。
| DDSの目的 | 内容 |
|---|---|
| Targeting(ターゲティング) | 目的部位への選択的集積 |
| Controlled release(放出制御) | 薬物放出速度・タイミングの制御 |
| Site-specific delivery | 副作用の軽減・有効性の向上 |
経口DDS・放出制御製剤
放出制御製剤の種類
| 製剤タイプ | 仕組み | 代表例 |
|---|---|---|
| 徐放性製剤(SR) | 薬物放出を遅らせ長時間効果を持続 | ニフェジピン徐放錠 |
| 腸溶性製剤 | 胃酸耐性コーティング→小腸で溶解 | アスピリン腸溶錠 |
| 口腔内崩壊錠(OD錠) | 唾液で崩壊→嚥下困難者に有用(初回通過効果あり) | 抗精神病薬など |
| 舌下錠・バッカル錠 | 口腔粘膜吸収→初回通過効果を回避 | ニトログリセリン舌下錠 |
放出制御の機構
| 機構 | 構造 |
|---|---|
| マトリックス型 | 薬物をポリマー基剤に均一分散→拡散・浸食で放出 |
| リザーバー型(膜制御型) | 薬物コアを速度制御膜でコーティング→0次放出 |
徐放製剤・腸溶製剤は粉砕・半割禁忌 放出制御が破綻し過剰放出→中毒リスク。粉砕可能かは薬剤師が必ず確認する
🧬 注射剤DDSキャリア
リポソーム
リン脂質二重膜からなる球状小胞体(粒子径100〜200 nm)。
| 部位 | 封入できる薬物 |
|---|---|
| 内水相(コア) | 水溶性薬物 |
| 脂質二重膜中 | 脂溶性薬物 |
| 代表製剤 | 薬物 | 適応 |
|---|---|---|
| ドキシル® | ドキソルビシン(PEG化リポソーム) | がん化学療法後に増悪した卵巣癌、エイズ関連カポジ肉腫 |
| アムビゾーム® | アムホテリシンB | 深在性真菌症 |
PEG化(ステルス化)のポイント 通常リポソーム→マクロファージに貪食→短い半減期。PEG修飾→免疫系を回避(ステルス効果)→血中循環時間↑→EPR効果による腫瘍集積↑
その他のキャリア
| キャリア | 特徴 |
|---|---|
| 高分子ミセル | 両親媒性ブロック共重合体が自己集合。疎水性薬物を内包 |
| 高分子ナノ粒子 | PLGA等の生分解性ポリマー。タンパク質・核酸も封入可 |
| LNP(脂質ナノ粒子) | イオン化脂質・リン脂質・コレステロール・PEG化脂質の4成分。mRNAワクチンのキャリア |
| デンドリマー | 樹状高分子。表面に多数の官能基→薬物・標的分子を修飾 |
ターゲティング
パッシブ(受動的)ターゲティング:EPR効果
| 正常血管 | 腫瘍血管 | |
|---|---|---|
| 内皮細胞間隙 | 密(〜8 nm) | 大きい(200〜800 nm) |
| 高分子の通過 | 通過しにくい | 漏出しやすい |
| リンパ管 | 正常機能 | 未発達→薬物が滞留 |
EPR効果(Enhanced Permeability and Retention effect) 腫瘍血管の高透過性+リンパ管未発達による滞留 → 粒子径100〜200 nmのキャリアが腫瘍に自然集積。パッシブターゲティングの理論的根拠
アクティブ(能動的)ターゲティング
キャリア表面にリガンドを修飾し、標的細胞の受容体に特異的結合。
| リガンド | 標的受容体 | 対象 |
|---|---|---|
| 抗体(IgG) | 腫瘍抗原 | がん細胞 |
| 葉酸 | 葉酸受容体(腫瘍に過剰発現) | 卵巣がんなど |
| 糖鎖(ガラクトース) | アシアロ糖タンパク受容体(レクチン) | 肝細胞 |
| トランスフェリン | トランスフェリン受容体 | 脳・腫瘍 |
「レクチンによる能動的ターゲティング → 糖鎖修飾」(PEG修飾は受動的ターゲティング)
抗体薬物複合体(ADC)
ADC(Antibody-Drug Conjugate):抗体+リンカー+細胞毒性薬(ペイロード)の複合体。
作用機序:
- 抗体が腫瘍抗原に特異的結合
- エンドサイトーシスで細胞内に取り込まれる
- リソソーム内でリンカーが切断
- ペイロード(細胞毒性薬)が放出 → DNA傷害・細胞死
| ADC製剤 | 標的抗原 | 適応 |
|---|---|---|
| トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1) | HER2 | HER2陽性乳がん |
| トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd) | HER2 | HER2陽性乳がん・胃がん |
| ブレンツキシマブ ベドチン | CD30 | ホジキンリンパ腫 |
| イノツズマブ オゾガマイシン | CD22 | 急性リンパ性白血病 |
🩹 経皮・粘膜DDS
| 代表薬 | 製剤 | 適応 |
|---|---|---|
| ニトログリセリン | テープ剤 | 狭心症予防 |
| フェンタニル | パッチ剤 | がん疼痛・慢性疼痛 |
| ツロブテロール | テープ剤 | 気管支喘息(小児に多用) |
| ニコチン | パッチ剤 | 禁煙補助 |
| リバスチグミン | パッチ剤 | アルツハイマー型認知症 |
経皮吸収製剤のメリット:初回通過効果を回避・長時間の安定した血中濃度・貼り替えで中止が容易
国試頻出まとめ
| # | テーマ | 重要ポイント |
|---|---|---|
| 1 | EPR効果 | 腫瘍血管の高透過性+リンパ管未発達による滞留。受動的ターゲティングの根拠 |
| 2 | PEG化(ステルス化) | 免疫回避→血中循環時間↑。代表:ドキシル®(PEG化リポソーム) |
| 3 | リポソームへの薬物封入 | 水溶性→内水相、脂溶性→脂質二重膜 |
| 4 | 能動的ターゲティング | リガンド修飾で受容体に特異的結合。レクチン認識には糖鎖修飾 |
| 5 | ADCの機序 | 結合→エンドサイトーシス→リソソームでリンカー切断→ペイロード放出 |
| 6 | 徐放製剤の禁忌 | 粉砕・半割禁忌。放出制御が破綻→過剰放出→中毒 |
| 7 | 舌下錠の特徴 | 口腔粘膜吸収→初回通過効果回避。代表:ニトログリセリン |
| 8 | LNPの組成 | イオン化脂質・リン脂質・コレステロール・PEG化脂質の4成分 |
| 9 | 腸溶製剤 | 胃酸耐性コーティング→小腸で溶解。NSAIDs胃粘膜保護・不安定薬物の保護 |
| 10 | 受動的 vs 能動的 | 受動的=EPR効果・PEG化、能動的=抗体・糖鎖・葉酸などリガンド修飾 |
📝 国試過去問チェック
第111回 問55(受動的ターゲティング製剤)
受動的ターゲティングを目的に臨床で用いられている製剤はどれか。1つ選べ。
- 自己乳化型マイクロエマルション製剤
- マイクロニードル製剤
- シクロデキストリン包接体製剤
- ポリエチレングリコール修飾リポソーム製剤
- 生分解性高分子マイクロカプセル型製剤
解答と解説を見る
正答:4
1❌ 自己乳化型マイクロエマルション:難溶性薬物の溶解性改善(ターゲティングではない)
2❌ マイクロニードル製剤:皮膚透過促進(ターゲティングではない)
3❌ シクロデキストリン包接体:溶解性・安定性向上(ターゲティングではない)
4✅ PEG修飾リポソーム(ドキシル®):PEG鎖による長循環化(ステルス効果)→腫瘍血管のEPR効果で受動的にがん組織に集積。臨床で使われている受動的ターゲティング製剤の代表
5❌ 生分解性高分子マイクロカプセル:放出制御が主目的(受動的ターゲティングとは異なる)
第110回 問55(レクチン認識による能動的ターゲティング)
レクチンによる認識機構を介した能動的ターゲティングのための修飾基として用いられるのはどれか。1つ選べ。
- 糖鎖
- ポリペプチド
- 長鎖不飽和脂肪酸
- オリゴヌクレオチド
- ポリエチレングリコール(PEG)
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正答:1
1✅ 糖鎖:レクチン(糖結合タンパク質)は特定の糖鎖構造を認識する。製剤表面にガラクトースなどの糖鎖を修飾→肝細胞のアシアロ糖タンパク質受容体(レクチン型受容体)に結合→能動的ターゲティング
2❌ ポリペプチド:抗体・ペプチドリガンドによる能動的ターゲティングはあるがレクチン認識ではない
3❌ 長鎖不飽和脂肪酸:脂質膜の構成成分(ターゲティングリガンドではない)
4❌ オリゴヌクレオチド:核酸医薬の素材(糖鎖認識とは無関係)
5❌ PEG修飾:受動的ターゲティング(ステルス効果による長循環化・EPR効果の利用)
第109回 問55(リポソームへの薬物封入)
リポソームに封入されやすい薬物の組合せとして正しいのはどれか。1つ選べ。
(内水相封入:水溶性薬物 / 脂質二重膜封入:脂溶性薬物)
- 内水相:ドキソルビシン(水溶性) 膜中:アムホテリシンB(脂溶性)
- 内水相:脂溶性薬物 膜中:水溶性薬物
- 内水相・膜中ともに脂溶性薬物のみ封入可能
- 内水相・膜中ともに水溶性薬物のみ封入可能
- リポソームは薬物を封入できない
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正答:1
1✅ リポソームの構造的特徴:内水相(コア)→水溶性薬物(ドキソルビシン等)、脂質二重膜中→脂溶性薬物(アムホテリシンB等)を封入。両方の性質の薬物を1粒子に封入できる点がリポソームの大きなメリット
2❌ 内外が逆。内水相は水性環境なので水溶性薬物が封入される
3❌・4❌ リポソームは水溶性・脂溶性の両方を封入可能
5❌ リポソームは薬物キャリアとして薬物を封入する
