📐 分配係数の定義
溶質が2つの混ざり合わない溶媒(有機溶媒と水)に分配されたときの平衡濃度比。
| 指標 | 定義 | 特徴 |
|---|---|---|
| KD(真の分配係数) | 有機層/水層の分子形濃度比 | pHに依存しない(分子形のみ) |
| D(見かけの分配係数) | 有機層の全濃度 / 水層の全濃度 | pHに依存する;D = KD × α |
| logP | 1-オクタノール/水系でのKDの常用対数 | 脂溶性の汎用指標。pHに依存しない |
| logD | 特定pHでのDの常用対数 | 実際の体内吸収予測に使用。pHに依存する |
✅ logPとlogDの違い(最重要)
- logP:中性(分子形のみ)での脂溶性 → pH非依存
- logD:実際のpHでの「見かけ」の脂溶性 → pH依存
- 弱酸のlogD:pH↑(塩基性)→ イオン形↑ → logD↓(水層に留まりやすい)
- 弱塩基のlogD:pH↓(酸性)→ イオン形↑ → logD↓
🧪 弱酸・弱塩基とpHの関係
イオン形は有機層に移行しない(分子形のみ移行する)
弱酸(HA ⇌ H⁺ + A⁻)
| pHとpKaの関係 | 分子形の割合α | 抽出されやすさ |
|---|---|---|
| pH ≪ pKa(強酸性) | α ≈ 1(ほぼ全て分子形) | 最も抽出されやすい |
| pH = pKa | α = 0.5 | 半分が分子形 |
| pH ≫ pKa(塩基性) | α ≈ 0(ほぼイオン形) | 抽出されにくい |
弱塩基(B + H⁺ ⇌ BH⁺)
| pHとpKaの関係 | 分子形の割合α | 抽出されやすさ |
|---|---|---|
| pH ≫ pKa(塩基性) | α ≈ 1(ほぼ全て分子形) | 最も抽出されやすい |
| pH = pKa | α = 0.5 | 半分が分子形 |
| pH ≪ pKa(酸性) | α ≈ 0(ほぼイオン形) | 抽出されにくい |
✅ まとめ: 弱酸 → pH低い(酸性)ほど抽出されやすい 弱塩基 → pH高い(塩基性)ほど抽出されやすい
🔢 抽出率の計算手順
公式
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| E | 抽出率(0〜1) |
| D | 見かけの分配係数(KD × α) |
| Vo | 有機溶媒の体積 |
| Vw | 水層の体積 |
| α | 水層中の分子形の割合 |
ステップ別計算手順
① pH と pKa から [A⁻]/[HA] 比を計算(10^(pH-pKa))
② 分子形の割合 α を求める(α = [HA]/([HA]+[A⁻]))
③ D = KD × α を計算
④ E = D·Vo / (D·Vo + Vw) に代入
計算例
設定: 弱酸HA(pKa = 5.0)、pH = 4.7(10^0.3 = 2 とする)、KD = 6.0、Vo = 100 mL、Vw = 200 mL
① [A⁻]/[HA] = 10^(4.7-5.0) = 10^(-0.3) = 1/2
② α = [HA]/([HA]+[A⁻]) = 1/(1+1/2) = 2/3
③ D = KD × α = 6.0 × 2/3 = 4.0
④ E = 4.0 × 100 / (4.0 × 100 + 200) = 400/600 = 0.67 ≒ 67%
✅ α の求め方(公式) 弱酸:α = 1 / (1 + 10^(pH−pKa)) 弱塩基:α = 1 / (1 + 10^(pKa−pH))
🔁 繰り返し抽出
同じ総量の有機溶媒でも、少量を複数回に分けて抽出する方が1回大量抽出より効率が高い。
残存率の公式
n回抽出後の水層への残存率:
比較例
設定: D = 3.0、Vw = 200 mL、有機溶媒の総量 100 mL
| 抽出法 | 計算 | 抽出率 |
|---|---|---|
| 1回 100 mL | E = 3.0×100/(3.0×100+200) = 300/500 | 60% |
| 2回 50 mL×2 | 残存率 = (200/(3.0×50+200))² = (200/350)² = (4/7)² ≈ 0.327 | 67% |
| 4回 25 mL×4 | 残存率 = (200/(3.0×25+200))⁴ = (200/275)⁴ ≈ 0.283 | 72% |
✅ 分割回数が多いほど抽出率が高くなる 製剤の溶媒抽出・天然物の精製で重要な原則
💊 logPと薬物設計への応用
| logP の値 | 意味 | 薬物への影響 |
|---|---|---|
| 高い(logP > 5) | 脂溶性が高い | 水に溶けにくい・経口吸収低下・代謝されにくい・蓄積リスク |
| 最適(logP ≒ 1〜3) | バランスが良い | 消化管吸収・膜透過ともに良好(リピンスキーの法則) |
| 低い(logP < 0) | 水溶性が高い | 尿中排泄されやすい・血液脳関門通過しにくい |
リピンスキーのルールオブ5(経口薬の吸収条件):
- logP ≤ 5
- 分子量 ≤ 500
- 水素結合ドナー数 ≤ 5
- 水素結合アクセプター数 ≤ 10
⚠️ 体内でのpHとlogD: 胃(pH 1〜2):弱酸の分子形↑ → logD 高い → 胃からも吸収あり 腸(pH 6〜7):弱塩基の分子形↑ → logD 高い → 腸での吸収良好
📋 国試頻出まとめ
| # | テーマ | 重要ポイント |
|---|---|---|
| 1 | KDの定義 | 有機/水の分子形濃度比(pHに依存しない) |
| 2 | D(見かけの分配係数) | D = KD × α(pHに依存する) |
| 3 | logP vs logD | logP:pH非依存 / logD:pH依存(実際の吸収予測に使用) |
| 4 | 弱酸の抽出 | pH低い(酸性)→ 分子形↑ → 抽出率↑ |
| 5 | 弱塩基の抽出 | pH高い(塩基性)→ 分子形↑ → 抽出率↑ |
| 6 | α の計算 | 弱酸:α = 1/(1+10^(pH-pKa));弱塩基:α = 1/(1+10^(pKa-pH)) |
| 7 | 抽出率の公式 | E = D·Vo / (D·Vo + Vw) ※D = KD×α |
| 8 | 繰り返し抽出 | 少量×複数回 > 1回大量(抽出効率が高い) |
| 9 | logP 最適値 | logP ≒ 1〜3 が経口吸収に最適(リピンスキーの法則) |
| 10 | イオン形の分配 | イオン形は有機層に移行しない |
📝 国試過去問チェック
第107回薬剤師国家試験 問96
分配係数は、薬物の脂溶性の指標として用いられる。ある1価の弱酸HA(pKa 5.3)がpH 5.0の緩衝液中に溶解している。この緩衝液200 mLに水と混ざり合わない有機溶媒100 mLを加えてHAを1回抽出したところ、抽出率は75%であった。この弱酸HAの分配係数KD(有機溶媒中の分子形の濃度/緩衝液中の分子形の濃度)に最も近い値はどれか。1つ選べ。ただし、温度は一定で混合により体積変化はなく、イオン形は有機層に移行しないものとする。また10^0.3 = 2とする。
1. 4.0
2. 5.0
3. 6.0
4. 7.0
5. 9.0
解答と解説を見る
正解:5(KD = 9.0)
pH = 5.0、pKa = 5.3 より:
→ 水層では [A⁻] = (1/2)[HA](pH一定のバッファーで維持)
平衡後の水層中の分子形濃度を [HA]_水 = y とすると: 有機層:KD·y(100 mL)、水層:y(HA)+ 0.5y(A⁻)(200 mL)
✅ 注意: KD(真の分配係数)は分子形のみの比。見かけのD = KD × α = 9.0 × 2/3 = 6.0。
第110回薬剤師国家試験 問5(必須問題)
溶媒中で解離しない薬物Xを50 mmol含む水溶液100 mLに酢酸エチルを加えて振とう、静置したところ、二液相に分相し、酢酸エチル相中のXは45 mmolであった。Xの分配係数(酢酸エチル相中の濃度/水相中の濃度)を18とすると、酢酸エチル相の体積はどれか。1つ選べ。ただし、分配に用いる溶媒は互いの溶媒で飽和されており、水相の体積は100 mLとする。
1. 50 mL
2. 100 mL
3. 150 mL
4. 200 mL
5. 250 mL
解答と解説を見る
正解:1(50 mL)
解離しない薬物なのでKD = D = 18。
水相中のX = 50 − 45 = 5 mmol(水相体積100 mL)
✅ ポイント: 水相に残ったX(5 mmol)をまず求めてから、KDの定義式に代入する。
第108回薬剤師国家試験 問15
弱酸HA(pKa = 5.0)が水層400 mLに溶解している。見かけの分配係数D = 4.0の有機溶媒200 mLで1回抽出した場合と、100 mL×2回に分けて抽出した場合の抽出率をそれぞれ求め、正しい記述を選べ。
1. 1回抽出(200 mL)の抽出率は50%、2回抽出(100 mL×2)の抽出率も50%で同じである 2. 1回抽出(200 mL)の抽出率は67%、2回抽出(100 mL×2)の抽出率は75%で、分割した方が高い 3. 1回抽出(200 mL)の抽出率は75%、2回抽出(100 mL×2)の抽出率は67%で、1回の方が高い 4. 1回抽出(200 mL)の抽出率は50%、2回抽出(100 mL×2)の抽出率は75%で、分割した方が高い 5. 1回抽出(200 mL)の抽出率は67%、2回抽出(100 mL×2)の抽出率も67%で同じである
解答と解説を見る
正解:2
1回 200 mL:
2回 100 mL×2:
1回目残存率 = Vw/(D×Vo + Vw) = 400/(4.0×100 + 400) = 400/800 = 0.5
2回目残存率 = 0.5² = 0.25 → 抽出率 = 75%
→ 100 mL×2 回(75%)> 200 mL×1 回(67%)で分割した方が効率的。
第110回薬剤師国家試験 問17
logP(1-オクタノール/水)に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1. logPの値は、pHの変化に依存して変化する 2. logDの値は、pHが変化しても一定である 3. 弱酸の場合、pH > pKa の条件でlogDはlogPより小さくなる 4. logPが大きいほど水溶性が高い 5. 弱塩基の場合、pH < pKa の条件では分子形の割合が減少し、logDはlogPより小さくなる
解答と解説を見る
正解:3, 5
3○ 弱酸では pH > pKa でイオン形(A⁻)が増加 → D = KD × α < KD → logD < logP。
5○ 弱塩基では pH < pKa でイオン形(BH⁺)が増加 → α 低下 → D < KD → logD < logP。
1✗ logP は1-オクタノール/水系での分子形のみの分配係数の対数。pH非依存。
2✗ logD は特定pHでの見かけの分配係数。pHによって変化する(logDがpH非依存なのは誤り)。
4✗ logP が大きい = 有機層に移行しやすい = 脂溶性が高い(水溶性ではない)。
第106回薬剤師国家試験 問96
弱酸HA(pKa = 4.0)がpH 3.7の緩衝液100 mLに溶解している。KD(有機層の分子形濃度/水層の分子形濃度)= 8.0の有機溶媒100 mLで1回抽出した。抽出率(%)に最も近い値はどれか。1つ選べ。ただし10^0.3 = 2とする。
1. 57 2. 67 3. 73 4. 80 5. 89
解答と解説を見る
正解:4(80%)
① [A⁻]/[HA] の計算: pH - pKa = 3.7 - 4.0 = -0.3 [A⁻]/[HA] = 10^(-0.3) = 1/2
② α の計算: α = 1/(1 + 1/2) = 2/3
③ D = KD × α: D = 8.0 × 2/3 = 16/3
④ 抽出率:
最も近い値は 4(80%)
