🧪 ドナン平衡とは
半透膜(低分子・小イオンは通るが高分子は通らない膜)を挟んで、片方に荷電高分子(タンパク質等)がある場合、小イオンの分布が非対称になる平衡状態。
成立条件:
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| ① 半透膜が存在する | 高分子を通さないが小イオンは通す |
| ② 通過できない荷電高分子が一方にある | タンパク質(P^z⁻)など |
| ③ 小イオン(Na⁺・Cl⁻等)は膜を自由に通過できる | - |
✅ ドナン平衡 = 荷電高分子による小イオンの不均一分布 高分子がある側(内相)は電気的中性を保つため、対イオン(Na⁺)が多く集まり、同符号のイオン(Cl⁻)は少なくなる
📐 ドナン条件式と電気的中性条件
平衡に達したとき、膜の両側で成立する式:
ドナン条件式(積の関係)
電気的中性条件
| 相 | 条件式 |
|---|---|
| 内相(タンパク質 P^z⁻ あり) | |
| 外相(タンパク質なし) |
ドナン比(r)
✅ ドナン比 r < 1 の意味:
- Na⁺(対イオン):内相 > 外相(高分子側に多い)
- Cl⁻(同符号イオン):内相 < 外相(高分子側に少ない)
🔢 ドナン平衡の計算手順
手順の流れ
① 初期条件の設定
② 外相からx mol/L のNaClが内相に移行すると仮定
③ 平衡後の各濃度を表で整理
④ ドナン条件式に代入して x を求める
⑤ 各イオン濃度を計算
計算例
設定:
- 内相:タンパク質 P⁴⁻(0.02 mol/L)→ 対イオン Na⁺ = 0.02×4 = 0.08 mol/L
- 外相:NaCl(0.10 mol/L)
平衡後、外相から x mol/L の NaCl が内相に移行するとすると:
| 内相 [Na⁺] | 内相 [Cl⁻] | 外相 [Na⁺] | 外相 [Cl⁻] | |
|---|---|---|---|---|
| 平衡後 | 0.08 + x | x | 0.10 − x | 0.10 − x |
ドナン条件式に代入:
平衡濃度:
| 内相 | 外相 | |
|---|---|---|
| [Na⁺] | 0.08 + 0.036 = 0.116 mol/L | 0.10 − 0.036 = 0.064 mol/L |
| [Cl⁻] | 0.036 mol/L | 0.064 mol/L |
✅ 確認: 内相 0.116 × 0.036 ≈ 外相 0.064 × 0.064 ≈ 0.0041 ✓
⚠️ 結果のポイント:
- Na⁺は内相(タンパク質側)の方が高い(0.116 > 0.064)
- Cl⁻は内相の方が低い(0.036 < 0.064)
- 外相では Na⁺ = Cl⁻(電気的中性)
⚡ ドナン膜電位
ドナン平衡により膜の両側にイオン濃度差が生じると**膜電位(ドナン電位)**が発生する。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| R | 気体定数(8.314 J/mol・K) |
| T | 絶対温度(K) |
| z | イオン価数 |
| F | ファラデー定数(96,485 C/mol) |
| r | ドナン比(< 1) |
✅ r < 1 なので ln r < 0 → 内相が外相より電位が低い(負) タンパク質がある内相は負に帯電した状態になる
💧 浸透圧との関係(コロイド浸透圧)
ドナン平衡により、内相の溶質粒子の総数が増加するため、浸透圧が理論値より高くなる。
理由: 高分子の浸透圧 + ドナン効果による過剰な小イオンの蓄積
| 血液での例 | 内容 |
|---|---|
| 血漿タンパク質(アルブミン等) | 毛細血管内に留まり外に出られない |
| ドナン効果 | タンパク質の負電荷 → Na⁺等が血漿側に多く保持 |
| 結果 | 血漿膠質浸透圧が高まり、水分が血管内に引き戻される |
✅ 浮腫の原因:低タンパク血症(アルブミン低下)→ 膠質浸透圧低下 → 水分が組織に漏出
🏥 製剤・医療への応用
| 場面 | ドナン平衡との関係 |
|---|---|
| 血液透析 | アルブミン等の高分子は透析膜を通過できず血中に残留。尿素・クレアチニン・K⁺は除去される |
| 血漿膠質浸透圧 | タンパク質のドナン効果 → 血管内に水分を保持(浮腫の予防) |
| 注射剤・輸液設計 | タンパク質を含む輸液のイオン分布設計 |
| コロイド透析(精製) | タンパク質コロイドの透析精製 |
📋 国試頻出まとめ
| # | テーマ | 重要ポイント |
|---|---|---|
| 1 | ドナン平衡の条件 | 半透膜 + 通過できない荷電高分子 |
| 2 | ドナン条件式 | [Na⁺]内 × [Cl⁻]内 = [Na⁺]外 × [Cl⁻]外(積が等しい) |
| 3 | 電気的中性(内相) | [Na⁺]内 = [Cl⁻]内 + z×[P^z⁻] |
| 4 | Na⁺の分布 | 高分子(タンパク質)側(内相)の Na⁺ が多い |
| 5 | Cl⁻の分布 | 高分子(タンパク質)側(内相)の Cl⁻ が少ない |
| 6 | ドナン比 r | r = [Na⁺]外/[Na⁺]内 = [Cl⁻]内/[Cl⁻]外(r < 1) |
| 7 | ドナン膜電位 | 内相が外相より電位が低い(負) |
| 8 | 浸透圧への影響 | 実測浸透圧 > van't Hoff の理論値(過剰な小イオン蓄積) |
| 9 | 血液透析 | 高分子(アルブミン等)は膜通過できず残留 |
| 10 | 浮腫との関係 | 低アルブミン血症 → 膠質浸透圧低下 → 浮腫 |
📝 国試過去問チェック
第107回薬剤師国家試験 問14
タンパク質溶液と塩化ナトリウム水溶液が半透膜で隔てられて平衡(ドナン平衡)に達している。タンパク質溶液側と塩化ナトリウム水溶液側を比較したとき、正しいのはどれか。2つ選べ。
1. タンパク質溶液側のNa⁺濃度は、塩化ナトリウム水溶液側のNa⁺濃度より低い 2. タンパク質溶液側のCl⁻濃度は、塩化ナトリウム水溶液側のCl⁻濃度より低い 3. ドナン平衡では、[Na⁺]内 × [Cl⁻]内 = [Na⁺]外 × [Cl⁻]外 が成立する 4. タンパク質溶液側の浸透圧は、塩化ナトリウム水溶液側の浸透圧より低い 5. タンパク質の電荷はドナン平衡に影響しない
解答と解説を見る
正解:2, 3
2○ タンパク質(P^z⁻)は負電荷をもつため、同符号のCl⁻(アニオン)は内相から排除される。よってタンパク質溶液側のCl⁻濃度は外相より低い。
3○ ドナン平衡では膜を通過できるイオンの積が両側で等しくなる(ドナン条件式)。
1✗ タンパク質の負電荷を打ち消すためにNa⁺(対イオン)は内相に多く集まる。内相のNa⁺ > 外相のNa⁺。
4✗ 内相は過剰なNa⁺蓄積のため溶質粒子が多い → 浸透圧は内相の方が高い(コロイド浸透圧)。
5✗ タンパク質の電荷(z)は電気的中性条件に直接影響し、ドナン平衡の結果を左右する。
第108回薬剤師国家試験 問15
半透膜で隔てられた2つの区画(内相・外相)において、内相に分子量60,000のタンパク質P(電荷:−4)が0.01 mol/L溶けており、外相にはNaClのみが0.10 mol/L溶けている。ドナン平衡が成立したとき、外相のNa⁺濃度(mol/L)に最も近い値はどれか。1つ選べ。
ただし、タンパク質は半透膜を通過しないものとし、初期に内相にはNaCl以外のイオンは存在しないものとする。
1. 0.035 2. 0.048 3. 0.064 4. 0.082 5. 0.095
解答と解説を見る
正解:3(0.064 mol/L)
手順:
タンパク質P⁴⁻(0.01 mol/L)の対イオン Na⁺ = 0.01 × 4 = 0.04 mol/L(内相の初期Na⁺)
外相から x mol/L のNaClが内相に移行すると:
| 内相 [Na⁺] | 内相 [Cl⁻] | 外相 [Na⁺] | 外相 [Cl⁻] | |
|---|---|---|---|---|
| 平衡後 | 0.04 + x | x | 0.10 − x | 0.10 − x |
ドナン条件式:
外相Na⁺ = 0.10 − 0.042 = 0.058 ≈ 0.064 mol/L(選択肢3が最も近い)
第109回薬剤師国家試験 問15
ドナン平衡に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1. ドナン平衡は、電荷をもたない高分子が半透膜を通過できない場合にも成立する 2. ドナン平衡では、タンパク質のある側の膜電位は、タンパク質のない側より低くなる(負になる) 3. ドナン平衡が成立している系の浸透圧は、タンパク質のみの浸透圧とNaClのみの浸透圧の和に等しい 4. 血液中のアルブミンは血漿膠質浸透圧に寄与し、血管内への水分保持に関与する 5. 血液透析では、アルブミンは透析膜を通過して除去される
解答と解説を見る
正解:2, 4
2○ タンパク質(P^z⁻)がある内相は負電荷が余剰となり、膜電位はE_D = RT/F × ln r < 0(内相が負)。
4○ アルブミン等の血漿タンパク質はドナン効果により血管内にNa⁺を多く保持し、膠質浸透圧を高めて血管内への水分保持に貢献する。低アルブミン血症では膠質浸透圧低下 → 浮腫。
1✗ ドナン平衡は電荷をもつ高分子(荷電高分子)が必要条件。電荷のない高分子では成立しない。
3✗ ドナン平衡では小イオンが内相に過剰蓄積するため、実測浸透圧はタンパク質 + NaCl の単純な和より大きくなる。
5✗ アルブミン(分子量約66,000)は透析膜を通過できないため除去されない。これが血液透析でアルブミンが保持される理由。
第107回薬剤師国家試験 問94
生体膜の膜電位は、膜の両側におけるイオン濃度の不均衡によって生じる。図のように、半透膜の内相にタンパク質P⁵⁻(−5の電荷をもち5Na⁺が対イオン)の0.01 mol/L水溶液を置き、外相には濃度が0.1 mol/LのNaCl水溶液を置いておく。平衡状態に達したとき、半透膜の内相と外相のNa⁺とCl⁻の濃度には次式が成立している。
平衡に達したときの半透膜の内相と外相のNa⁺の濃度の差に最も近い値はどれか。1つ選べ。ただし、浸透圧差に基づく物質の移動は考慮しないものとする。
1. 0.01 mol/L
2. 0.03 mol/L
3. 0.05 mol/L
4. 0.07 mol/L
5. 0.09 mol/L
解答と解説を見る
正解:2(0.03 mol/L)
タンパク質P⁵⁻(0.01 mol/L)の対イオン = 0.01 × 5 = 0.05 mol/L Na⁺(内相の初期Na⁺)
外相からx mol/LのNaClが内相に移行すると:
| 内相 [Na⁺] | 内相 [Cl⁻] | 外相 [Na⁺] | 外相 [Cl⁻] | |
|---|---|---|---|---|
| 平衡後 | 0.05 + x | x | 0.10 − x | 0.10 − x |
ドナン条件式:
- 内相 [Na⁺] = 0.05 + 0.04 = 0.09 mol/L
- 外相 [Na⁺] = 0.10 − 0.04 = 0.06 mol/L
- 差 = 0.09 − 0.06 = 0.03 mol/L → 選択肢2
第105回薬剤師国家試験 問14
半透膜を隔てた系でドナン平衡が成立している。次のうち誤っているのはどれか。1つ選べ。
1. タンパク質溶液側とNaCl溶液側のイオン積は等しい:[Na⁺]内[Cl⁻]内 = [Na⁺]外[Cl⁻]外 2. タンパク質(負電荷)溶液側のNa⁺濃度は、NaCl溶液側より高い 3. タンパク質溶液側のCl⁻濃度は、NaCl溶液側より高い 4. タンパク質溶液側の全イオン濃度は、NaCl溶液側より高くなる傾向がある 5. ドナン平衡では膜電位が生じる
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正解:3(誤り)
3✗(誤り) タンパク質(P^z⁻)は負電荷をもつため、同符号のCl⁻(アニオン)は内相から排除される。タンパク質溶液側のCl⁻濃度はNaCl溶液側より低い(高いは誤り)。
1○ ドナン条件式は正しい。 2○ Na⁺(対イオン)はタンパク質側に多く集まる → 内相 > 外相。 4○ 内相は過剰なNa⁺蓄積により溶質粒子が多くなる → 全イオン濃度が高くなる。 5○ イオン濃度差 → ドナン膜電位が発生する。
