💊 高齢者の薬物動態変化(ADME)
加齢に伴い薬物の吸収・分布・代謝・排泄(ADME)がすべて変化します。
吸収
| 変化 | 内容 |
|---|---|
| 胃酸分泌低下 | 胃内pHが上昇(弱酸性薬の吸収に影響) |
| 消化管蠕動運動の低下 | 吸収速度は低下するが吸収量は大きく変わらない |
分布
| 変化 | 方向 | 影響 |
|---|---|---|
| 体脂肪率 | ⬆ 増加 | 脂溶性薬の分布容積⬆・半減期延長(例:ジアゼパム) |
| 体内水分量 | ⬇ 減少 | 水溶性薬の分布容積⬇・血中濃度⬆(例:アミノグリコシド) |
| 血漿アルブミン | ⬇ 低下 | 酸性薬(ワルファリン・フェニトイン)の遊離型⬆→作用増強 |
| α1-酸性糖タンパク(AAG) | ➡ 増加または不変 | 塩基性薬(リドカイン・β遮断薬)の遊離型⬇ |
⚠️ AAG(α1-酸性糖タンパク)は急性相タンパクのため、高齢者では低下しない(増加または不変)
代謝
| 変化 | 内容 |
|---|---|
| 肝血流量の低下 | 加齢により20〜40%低下。初回通過効果の大きい薬の血中濃度が上昇 |
| 肝薬物代謝酵素(CYP)活性低下 | 薬物の代謝が遅延し半減期が延長 |
排泄
| 変化 | 内容 |
|---|---|
| 糸球体ろ過量(GFR)の低下 | 加齢とともに腎機能が低下。腎排泄型薬の蓄積・副作用リスク⬆ |
| 血清Cr値に注意 | 筋肉量減少により血清Crが低値でも腎機能は低下している場合がある |
🔢 腎機能の評価:Cockcroft-Gault式
✅ 高齢者では血清Crが低くても実際の腎機能(CLcr)は低下していることが多い → 「血清Cr正常値だから大丈夫」は誤り。CLcrで確認することが重要
⚠️ 高齢者で特に注意が必要な薬剤
薬物動態的に問題になりやすい薬剤
| リスク | 薬剤例 | 対応 |
|---|---|---|
| 腎排泄型・蓄積しやすい | アミノグリコシド系・メトホルミン・ジゴキシン・リチウム | 腎機能に応じた減量 |
| 肝代謝遅延で半減期延長 | ジアゼパム等ベンゾジアゼピン(長時間型) | 短時間型に変更を検討 |
| アルブミン低下で影響大 | ワルファリン・フェニトイン・NSAIDs | 遊離型⬆→過剰作用に注意 |
薬力学的に問題になりやすい薬剤
| 副作用リスク | 薬剤例 | 主な有害反応 |
|---|---|---|
| 抗コリン作用 | 三環系抗うつ薬・抗ヒスタミン薬(第1世代)・過活動膀胱治療薬 | 認知機能低下・尿閉・口渇・便秘 |
| 転倒・骨折リスク | ベンゾジアゼピン系・オピオイド・一部降圧薬 | 鎮静・ふらつき・起立性低血圧 |
| 低血糖 | SU薬(グリベンクラミド等)・インスリン | 遷延性低血糖(腎機能低下で薬剤蓄積) |
| QT延長 | 抗不整脈薬・抗精神病薬・一部抗菌薬 | 心室性不整脈(トルサード・ド・ポアン) |
| 消化管出血 | NSAIDs・アスピリン(低用量含む) | 胃腸粘膜障害(PPI併用を考慮) |
📊 ポリファーマシー(多剤併用)
ポリファーマシー: 多くの薬剤を服用することで薬物有害反応・相互作用・アドヒアランス低下が生じている状態
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 目安 | 6剤以上の服用で有害事象リスクが顕著に増加するとされる |
| 問題 | 薬物相互作用・飲み間違い・服薬負担・転倒リスク⬆ |
| 対策 | 定期的な処方見直し(ポリファーマシー外来)・処方カスケードへの注意 |
⚠️ 処方カスケード: 薬の副作用を別の疾患と誤認し、さらに薬を追加処方してしまう悪循環
💡 高齢者への薬物療法の原則
Low and Slow(少量から・緩徐増量)
→ 腎機能(CLcr・eGFR)を必ず確認
→ 抗コリン薬・ベンゾジアゼピン系は原則避ける
→ 定期的な服薬整理(ポリファーマシー対策)
📋 国試頻出まとめ
| # | テーマ | 重要ポイント |
|---|---|---|
| 1 | AAG(α1-酸性糖タンパク) | 高齢者では増加または不変(低下しない)急性相タンパク |
| 2 | 体脂肪率 | 加齢で増加 → 脂溶性薬の半減期が延長 |
| 3 | 体内水分量 | 加齢で減少 → 水溶性薬の血中濃度が上昇 |
| 4 | 血漿アルブミン | 加齢・低栄養で低下 → 酸性薬の遊離型増加 |
| 5 | 肝血流量 | 加齢で低下(20〜40%)→ 初回通過効果が大きい薬に注意 |
| 6 | 腎機能(GFR) | 加齢で低下。血清Cr正常でも腎機能は低下していることがある |
| 7 | Cockcroft-Gault式 | 年齢・体重・血清Crを使ってCLcrを計算。女性は×0.85 |
| 8 | 抗コリン薬 | 認知機能低下・尿閉・便秘のリスク。高齢者には原則避ける |
| 9 | ベンゾジアゼピン系 | 半減期延長・転倒リスク⬆。短時間型への変更を検討 |
| 10 | ポリファーマシー | 6剤以上で有害事象リスク増。処方カスケードに注意 |
📝 国試過去問チェック
第108回 問187(高齢者の薬物動態)
薬物動態に影響を与える因子のうち、高齢者において起きていると考えにくいのはどれか。1つ選べ。
- 体脂肪率の増加
- 血漿中のアルブミン濃度の低下
- 血漿中のα1-酸性糖タンパク濃度の低下
- 肝血流量の減少
- 糸球体ろ過量の減少
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正答:3
1❌(起きる)加齢で筋肉量が減少し体脂肪率は増加する。脂溶性薬の分布容積が増大し半減期が延長する。2❌(起きる)低栄養・肝機能低下によりアルブミンは低下する。酸性薬の遊離型が増加し作用が増強する。3✅(起きにくい=正答)α1-酸性糖タンパク(AAG)は急性相タンパクであり、高齢者では増加または不変。低下は起きにくい。4❌(起きる)肝血流量は加齢により20〜40%低下する。初回通過効果の大きい薬の血中濃度が上昇する。5❌(起きる)加齢とともにGFRは低下し、腎排泄型薬が蓄積しやすくなる。
第109回 問186(高齢者の薬物動態)
高齢者における薬物動態に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。
- 体内総水分量が増加するため、水溶性薬物の分布容積が増大する。
- 血漿アルブミン濃度が低下すると、アルブミンと結合する酸性薬物の非結合型分率が増加する。
- 肝血流量の低下により、初回通過効果の大きい薬物の経口投与後の血中濃度が低下する。
- 血清クレアチニン値が基準範囲内であっても、糸球体ろ過量が低下していることがある。
- 脂溶性薬物は体脂肪率の増加により分布容積が減少し、半減期が短縮する。
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正答:2・4
1❌ 加齢により体内総水分量は減少する。水溶性薬の分布容積は減少し、血中濃度が上昇しやすい。2✅ アルブミン低下により酸性薬(ワルファリン・フェニトインなど)の非結合型分率が増加し、作用が増強する。3❌ 肝血流量の低下により初回通過効果が大きい薬の血中濃度は上昇する(低下ではない)。4✅ 高齢者は筋肉量が減少しているため、血清Crが正常範囲内でも実際のGFR(CLcr)は低下していることが多い。Cockcroft-Gault式での確認が重要。5❌ 体脂肪率の増加により脂溶性薬の分布容積は増大し、半減期が延長する。
第110回 問185(高齢者への注意が必要な薬剤)
高齢者において、特に使用を避けるべき薬剤として適切なのはどれか。2つ選べ。
- トリアゾラム(超短時間型ベンゾジアゼピン系睡眠薬)
- アムロジピン(長時間作用型Ca拮抗薬)
- アミトリプチリン(三環系抗うつ薬)
- アセトアミノフェン(非オピオイド鎮痛薬)
- メトプロロール(β1選択的遮断薬)
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正答:1・3
1✅ トリアゾラム(ベンゾジアゼピン系)は高齢者では半減期延長・鎮静過剰による転倒・骨折リスクが高い。高齢者には原則として使用を避ける(日本老年医学会ガイドラインで推奨)。2❌ アムロジピンは高齢者の高血圧治療に広く使用される安全性の高い薬剤。3✅ アミトリプチリン(三環系抗うつ薬)は強い抗コリン作用(口渇・尿閉・便秘・認知機能低下・せん妄)があり、高齢者には使用を避けるべき薬剤。4❌ アセトアミノフェンは腎障害・消化管障害が少なく、高齢者の鎮痛に比較的安全。5❌ メトプロロール(β1選択性高い)は心不全・狭心症などへ適応され、適切に使用できる薬剤。
