食中毒の分類
食中毒は原因によって大きく4種類に分けられます。
| 分類 |
原因 |
代表例 |
| 細菌性 |
細菌または毒素 |
サルモネラ・腸炎ビブリオ・黄色ブドウ球菌など |
| ウイルス性 |
ウイルス |
ノロウイルス・A型肝炎ウイルス |
| 自然毒 |
動植物の毒素 |
フグ毒・キノコ毒・植物毒 |
| 化学性 |
化学物質 |
農薬・重金属・メタノールなど |
統計上、件数はノロウイルスが最多、患者数もノロウイルスが最多(近年)
① 細菌性食中毒
細菌性食中毒は「感染型」と「毒素型」に分けるのが国試の定番です。
感染型(菌が腸内で増殖して発症)
サルモネラ属菌
- 原因食品:鶏卵・食肉(特に鶏肉)
- 潜伏期間:6〜48時間(比較的長い)
- 症状:発熱・腹痛・下痢・嘔吐
- 特徴:加熱で予防可能。ペットのカメや爬虫類も感染源
- 治療:重症例は抗菌薬(ニューキノロン系)
腸炎ビブリオ
- 原因食品:海産魚介類(刺身・寿司)
- 潜伏期間:8〜24時間
- 症状:激しい腹痛・水様性下痢
- 特徴:好塩性(3% NaCl で最も増殖)。真水(流水)で洗浄することで予防
- 増殖速度:非常に速い(10分で2倍)
カンピロバクター
- 原因食品:鶏肉の加熱不十分・生レバー
- 潜伏期間:2〜7日(細菌性で最も長い)
- 症状:発熱・腹痛・下痢(血便あり)
- 合併症:Guillain-Barré症候群(発症後2〜4週後に神経症状)⭐
- 特徴:少量の菌でも感染成立(感染量が少ない)
腸管出血性大腸菌(O157など)
- 原因食品:牛肉(ユッケ・生レバー)・野菜
- 潜伏期間:3〜8日
- 症状:出血性下痢・強い腹痛
- 毒素:**ベロ毒素(志賀毒素様毒素)**産生⭐
- 合併症:溶血性尿毒症症候群(HUS)→抗菌薬でHUSリスク上昇のため投与は慎重⭐
- 感染力:非常に強い(100個以下で感染)
リステリア菌
- 特徴:4℃以下(冷蔵庫内)でも増殖可能⭐
- ハイリスク群:妊婦・高齢者・免疫不全者
- 原因食品:非加熱の乳製品・生ハム・スモークサーモン
毒素型(食品中で産生された毒素を摂取して発症)
黄色ブドウ球菌
- 産生毒素:エンテロトキシン(耐熱性)⭐
- 潜伏期間:1〜6時間(最短)⭐
- 症状:激しい嘔吐・腹痛・下痢(発熱なし or 軽度)
- 特徴:毒素は100℃・30分の加熱でも分解されない→再加熱しても予防できない⭐
- 感染源:化膿創のある調理者が主な汚染源
ボツリヌス菌
- 産生毒素:ボツリヌス毒素(神経毒・最強の毒素の一つ)⭐
- 原因食品:缶詰・真空パック・びん詰・からしレンコン・ハチミツ(乳児)
- 潜伏期間:8〜36時間
- 症状:神経麻痺(複視・嚥下困難・呼吸困難)→下痢より神経症状が主体
- 乳児ボツリヌス症:1歳未満にハチミツ禁忌(腸内でボツリヌス菌が増殖)⭐
- 治療:抗毒素血清・人工呼吸管理
セレウス菌
- 嘔吐型:チャーハン・ピラフ(米飯)・潜伏1〜5時間・耐熱性毒素
- 下痢型:食肉・スープ・潜伏8〜16時間
ウイルス性食中毒
ノロウイルス
- 感染経路:経口感染(二枚貝の生食・接触・飛沫)
- 潜伏期間:24〜48時間
- 症状:激しい嘔吐・下痢・腹痛(38℃前後の発熱)
- 特徴:少量(10〜100個)で感染・アルコール消毒が効きにくい⭐
- 消毒:次亜塩素酸ナトリウム(塩素系)が有効⭐
- 流行期:秋〜冬(11〜2月)にピーク
- 食品衛生法上の対応:患者の嘔吐物・便の適切な処理が重要
② 自然毒食中毒
動物性自然毒
| 毒素 |
原因食品 |
特徴 |
| テトロドトキシン(TTX) |
フグ(卵巣・肝臓) |
耐熱性⭐・電位依存性Na⁺チャネル遮断→麻痺・呼吸困難 |
| シガトキシン |
熱帯・亜熱帯の魚(バラフエダイ等) |
シガテラ中毒・温度感覚異常(ドライアイスセンセーション)⭐ |
| 麻痺性貝毒(サキシトキシン等) |
二枚貝 |
Na⁺チャネル遮断→麻痺 |
| 下痢性貝毒(オカダ酸等) |
ムール貝・ホタテ |
タンパクホスファターゼ阻害→下痢 |
植物性自然毒
| 毒素 |
原因食品 |
特徴 |
| ソラニン・チャコニン |
じゃがいもの芽・緑化部分 |
コリンエステラーゼ阻害⭐ |
| アミグダリン(青酸配糖体) |
未熟な梅・アンズの種 |
青酸(HCN)を遊離 |
| ムスカリン |
毒キノコ |
副交感神経刺激症状 |
| イルジン |
ツキヨタケ |
消化器症状・混同されやすい⭐ |
| コルヒチン |
イヌサフラン(行者ニンニクと誤認) |
多臓器不全 |
③ 食品添加物
食品添加物は食品衛生法で指定・規格が定められたものだけが使用可能です。
分類と代表例
| 用途 |
代表的な添加物 |
| 保存料 |
ソルビン酸(カリウム塩)・安息香酸・プロピオン酸 |
| 殺菌料 |
次亜塩素酸ナトリウム・高度さらし粉 |
| 酸化防止剤 |
BHA(ブチルヒドロキシアニソール)・BHT・ビタミンE(トコフェロール)・ビタミンC(アスコルビン酸) |
| 発色剤 |
亜硝酸ナトリウム(ハム・ソーセージの赤色保持)⭐ |
| 漂白剤 |
亜硫酸ナトリウム・次亜塩素酸ナトリウム |
| 甘味料 |
サッカリン・アスパルテーム・ステビア・スクラロース |
| 着色料 |
タール色素(赤色2号・3号など)・カラメル色素 |
| 乳化剤 |
グリセリン脂肪酸エステル・レシチン |
| 増粘剤・安定剤 |
カラギーナン・キサンタンガム・ペクチン |
| 膨張剤 |
炭酸水素ナトリウム(重曹)・ミョウバン |
| 調味料 |
グルタミン酸ナトリウム(MSG) |
亜硝酸ナトリウムの重要ポイント ⭐
- ハム・ソーセージ・ベーコン・明太子などに使用(発色剤)
- ミオグロビンと結合→ニトロソミオグロビン(鮮やかな赤色)
- **ニトロソアミン(発がん性)**の前駆体になる可能性→使用量が厳しく制限
- ボツリヌス菌の増殖抑制効果もある
④ 食品の変質と保存
変質の種類
| 変質の種類 |
原因 |
対象食品 |
| 腐敗 |
微生物によるタンパク質分解 |
肉・魚・卵など |
| 変敗 |
微生物による炭水化物・脂質の分解 |
ご飯・パンなど |
| 酸敗(油脂の酸化) |
酸素・光・熱・金属による油脂の酸化 |
食用油・バターなど |
腐敗の指標
| 指標物質 |
生成の仕組み |
基準値 |
| 揮発性塩基窒素(VBN) |
タンパク質→アンモニア・トリメチルアミン |
魚:20mg/100g以上で初期腐敗⭐ |
| K値 |
ATPの分解産物(HxR+Hx/全ATP分解物) |
魚の鮮度指標(20%以下が刺身用)⭐ |
| ヒスタミン |
ヒスチジン→ヒスタミン(アレルギー様症状) |
サバ・マグロなどに多い |
油脂の酸化(酸敗)の指標
| 指標 |
内容 |
| 酸価(AV) |
遊離脂肪酸の量→酸化進行で上昇⭐ |
| 過酸化物価(POV) |
一次酸化産物(過酸化物)→酸化初期に上昇 |
| カルボニル価(CV) |
二次酸化産物→酸化後期に上昇 |
| TBA価 |
マロンジアルデヒド量を測定 |
主な保存法
| 保存法 |
原理 |
例 |
| 冷蔵(1〜10℃) |
微生物・酵素の活性↓ |
日常的な保存 |
| 冷凍(−18℃以下) |
微生物の増殖停止・酵素活性停止 |
長期保存 |
| 加熱殺菌(低温殺菌) |
63℃・30分 or 75℃・15分 |
牛乳・ジュース |
| 加熱殺菌(超高温殺菌・UHT) |
120〜150℃・数秒 |
LL牛乳 |
| 乾燥(脱水) |
水分活性(Aw)を下げる |
干物・粉末食品 |
| 塩蔵・糖蔵 |
浸透圧↑→Aw↓→微生物増殖抑制 |
塩辛・ジャム |
| 燻製 |
煙の殺菌成分+水分↓ |
ベーコン・スモークサーモン |
| CA貯蔵 |
CO₂↑・O₂↓で呼吸抑制 |
果実・野菜 |
| 放射線照射 |
γ線でDNA損傷→殺菌 |
ジャガイモの発芽防止(日本では唯一承認)⭐ |
水分活性(Aw)
$$Aw = \frac{P}{P_0} = \frac{食品の水蒸気圧}{純水の水蒸気圧}$$
- 純水のAw = 1.0
- 細菌の増殖限界:Aw ≥ 0.90(一般細菌)⭐
- 酵母:Aw ≥ 0.85、カビ:Aw ≥ 0.80
- Awを下げることで微生物の増殖を抑制できる
⑤ HACCPと食品衛生法
HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)
- 危害要因分析重要管理点
- 予防的な衛生管理システム(事後検査ではなく工程管理)⭐
- 2021年から全ての食品事業者にHACCPに基づく衛生管理が義務化
- 7原則12手順で構成
重要管理点(CCP)
危害を防ぐ・除去・許容レベルに低減できる特定の加工工程
例:加熱工程(温度・時間の管理)、金属探知機の使用
食品衛生法の重要ポイント
| 項目 |
内容 |
| 食品添加物 |
厚生労働大臣が指定したもののみ使用可(指定外は原則禁止) |
| 規格基準 |
食品・添加物・器具・容器包装に設定 |
| 食品表示 |
食品表示法で一元化(2015年〜) |
| 健康食品 |
機能性表示食品・特定保健用食品(トクホ)・栄養機能食品 |
| 食中毒の届出 |
医師が食中毒患者を診断→24時間以内に保健所長に届出⭐ |
国試頻出まとめ
食中毒菌の特徴比較
| 菌名 |
潜伏期間 |
特徴的なポイント |
| 黄色ブドウ球菌 |
1〜6時間(最短) |
エンテロトキシン(耐熱性)・再加熱無効 |
| ボツリヌス菌 |
8〜36時間 |
神経毒・缶詰・乳児にハチミツ禁忌 |
| サルモネラ |
6〜48時間 |
鶏卵・食肉・加熱で予防可 |
| 腸炎ビブリオ |
8〜24時間 |
好塩性・海産魚介・真水で洗浄 |
| カンピロバクター |
2〜7日(最長) |
鶏肉・Guillain-Barré症候群 |
| O157 |
3〜8日 |
ベロ毒素・HUS・抗菌薬慎重投与 |
| ノロウイルス |
24〜48時間 |
少量で感染・次亜塩素酸Na消毒 |
| セレウス菌(嘔吐型) |
1〜5時間 |
チャーハン・耐熱性毒素 |
自然毒の覚え方
- フグ → テトロドトキシン → 耐熱性・Na⁺チャネル遮断
- じゃがいも芽 → ソラニン → コリンエステラーゼ阻害
- 乳児のハチミツ禁忌 → ボツリヌス菌(1歳未満禁忌)
- 二枚貝の生食 → ノロウイルス or 貝毒