🦠 感染症の薬物治療
感染症分野から国試頻出の重要テーマを解説します。特に溶連菌・C.ディフィシル・EHECの3テーマは連続出題されています。
🔴 ① A群β溶連菌と急性腎炎症候群
A群β溶連菌(GAS)とは
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 菌名 | 化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes) |
| 染色・形態 | グラム陽性球菌。血液寒天培地でβ溶血(完全溶血) |
| 起こす疾患 | 咽頭炎・扁桃炎・猩紅熱・とびひ |
| 第一選択薬 | ペニシリン系(アモキシシリン等) |
| 合併症 | 急性糸球体腎炎・リウマチ熱 |
続発する疾患:急性腎炎症候群
A群β溶連菌感染(咽頭炎)
↓ 1〜3週間後
免疫複合体(抗原+抗体)が糸球体基底膜に沈着
↓
補体活性化 → 糸球体炎症
↓
急性腎炎症候群
(血尿・蛋白尿・浮腫・高血圧・乏尿)
溶連菌感染後合併症の比較
| 合併症 | 発症時期 | 機序 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 急性糸球体腎炎 | 咽頭炎後2〜3週 | 免疫複合体沈着 | 血尿・タンパク尿・浮腫・高血圧 |
| リウマチ熱 | 咽頭炎後2〜4週 | 分子擬態(M蛋白→心臓交差反応) | 心炎・関節炎・舞踏病 |
✅ 「A群β溶連菌 → 急性腎炎症候群(1〜3週間後)」は国試最頻出の組み合わせ
主な腎炎症候群との区別
| 症候群 | 主な原因・特徴 |
|---|---|
| 急性腎炎症候群 | A群β溶連菌感染後(免疫複合体型) |
| 急速進行性腎炎症候群 | ANCA関連血管炎・抗GBM病 |
| ネフローゼ症候群 | 大量蛋白尿(>3.5g/日)・低アルブミン血症 |
| 慢性腎炎症候群(IgA腎症) | 反復性・持続性血尿 |
💊 ② C.ディフィシルと偽膜性大腸炎
クロストリディオイデス・ディフィシル(C. difficile)の特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 菌の特徴 | 芽胞形成グラム陽性偏性嫌気性桿菌 |
| 毒素 | 毒素A(腸毒素)+毒素B(細胞毒素)→ 大腸粘膜破壊 |
| 誘因 | 広域抗菌薬の使用による腸内菌叢破壊 |
発症機序
広域抗菌薬の使用
↓
腸内細菌叢の破壊(ディスバイオーシス)
↓
C.ディフィシルが異常増殖
↓
毒素産生 → 偽膜性大腸炎
(腸管壁に白色〜黄色の偽膜形成、水様性下痢)
治療薬
| 薬剤 | 適応 | 特徴 |
|---|---|---|
| メトロニダゾール | 軽〜中等症の第一選択(経口) | 嫌気性菌に強い活性 |
| バンコマイシン(経口) | 中〜重症・再発例 | 経口で腸管内に高濃度 |
| フィダキソマイシン | 再発例 | 再発抑制効果が高い |
| ベズロトクスマブ | 再発予防 | 毒素Bに対するモノクローナル抗体 |
⚠️ クラリスロマイシン・レボフロキサシン・アモキシシリン・ミノサイクリンはC.ディフィシルに無効
🩸 ③ 腸管出血性大腸菌(EHEC)とHUS
EHECの特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 代表菌株 | O157:H7など |
| 毒素 | **志賀毒素(ベロ毒素)**を産生 |
| 感染経路 | 汚染食品(生肉・野菜)から経口感染 |
| 重篤合併症 | HUS(溶血性尿毒症症候群) |
HUSの病態
志賀毒素が腸管から吸収
↓
腎臓の血管内皮細胞を傷害
↓
微小血管内で血液凝固(血栓性微小血管症)
↓
① 機械的溶血 → 溶血性貧血(赤血球破砕)
② 消耗性血小板減少症
③ 腎臓の虚血 → 急性腎不全
= HUS(3徴:溶血性貧血+血小板減少+急性腎不全)
⚠️ EHECに抗菌薬は原則使用しない 抗菌薬 → 菌の溶菌 → 志賀毒素の大量放出 → HUS悪化の可能性 基本的には支持療法(補液・透析など)
😷 感染経路と代表疾患
感染経路の分類
| 感染経路 | 特徴 | 代表疾患 |
|---|---|---|
| 空気感染(飛沫核感染) | 5μm以下の飛沫核が長時間空中浮遊 | 麻しん・水痘・肺結核 |
| 飛沫感染 | 5μm以上の飛沫が短距離(1〜2m)で落下 | インフルエンザ・風しん・ムンプス |
| 接触感染 | 直接・間接接触 | 疥癬・ノロウイルス・MRSA |
| 経口感染 | 糞口経路 | コレラ・A型肝炎・ポリオ |
| 血液・性行為感染 | 血液・体液・性行為 | HIV・B型肝炎・C型肝炎・梅毒 |
✅ 麻しん(はしか)は空気感染(飛沫感染ではない!) 風しん・ムンプス・インフルエンザは「飛沫感染」
レジオネラ肺炎と抗菌薬
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 菌の特徴 | グラム陰性桿菌・細胞内寄生菌 |
| 感染源 | 冷却塔の水・**循環式浴槽(温泉・ジャグジー)**のエアロゾル |
| なぜ特殊な治療が必要か | 細胞内に寄生するため、細胞内移行できる抗菌薬が必要 |
| 第一選択薬 | ニューキノロン系(シプロフロキサシン・レボフロキサシン)またはマクロライド系 |
| 無効な薬剤 | βラクタム系(ペニシリン・カルバペネム)・アミノグリコシド系・バンコマイシン |
⚠️ バンコマイシンはグラム陽性菌のみに有効。グラム陰性のレジオネラには無効
🔬 その他の重要感染症
HIV感染症の治療
| 原則 | 内容 |
|---|---|
| 治療開始基準 | CD4数にかかわらず全例に抗レトロウイルス療法(ART)を推奨 |
| 薬剤数 | **3剤以上の多剤併用(cART)**が原則(単剤では耐性化) |
| 休薬 | HIV-RNA量が減少しても休薬しない(継続が必須) |
| 免疫再構築症候群(IRIS) | ART開始後に免疫回復の過程で潜在感染症が顕在化する炎症反応 |
HIV治療薬の分類
| 分類 | 代表薬 | 作用 |
|---|---|---|
| NRTI(核酸系逆転写酵素阻害薬) | テノホビル・エムトリシタビン | 逆転写酵素阻害 |
| NNRTI(非核酸系逆転写酵素阻害薬) | エファビレンツ | 逆転写酵素のアロステリック阻害 |
| PI(プロテアーゼ阻害薬) | ダルナビル | ウイルス粒子成熟阻止 |
| INSTI(インテグラーゼ阻害薬) | ドルテグラビル・ラルテグラビル | 宿主DNAへの組込み阻止 |
| CCR5拮抗薬 | マラビロク | HIVの細胞侵入阻止 |
ウイルス性肝炎の比較
| 肝炎 | 感染経路 | 慢性化 | ワクチン | ポイント |
|---|---|---|---|---|
| A型 | 経口感染(生カキ等) | なし | あり | 急性肝炎のみ。黄疸あり |
| B型 | 血液・性行為・母子感染 | あり(一部) | あり | ワクチン接種→HBs抗体陽性 |
| C型 | 血液感染 | 約70〜80% | なし | 肝硬変・肝がんに進展しやすい |
帯状疱疹・ライ症候群
| 疾患 | 原因 | 特徴 |
|---|---|---|
| 帯状疱疹 | 水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化 | 知覚神経のデルマトームに沿って帯状の皮疹 |
| ライ症候群 | インフルエンザ・水痘後(アスピリン関連) | 肝障害+急性脳症+低血糖 |
⚠️ 帯状疱疹にステロイド薬を使う場合は抗ウイルス薬(アシクロビル等)を必ず併用 ⚠️ 小児のウイルス感染症(インフルエンザ・水痘)にアスピリンは禁忌(ライ症候群リスク)
📋 国試頻出まとめ
| # | テーマ | 重要ポイント |
|---|---|---|
| 1 | A群β溶連菌→続発疾患 | 急性腎炎症候群(1〜3週間後・免疫複合体性) |
| 2 | 溶連菌の第一選択薬 | ペニシリン系(バンコマイシンではない) |
| 3 | C.ディフィシルの治療 | メトロニダゾール(軽〜中等症)・バンコマイシン経口(重症) |
| 4 | C.ディフィシルの誘因 | 広域抗菌薬による腸内菌叢破壊 |
| 5 | EHEC→HUSの3徴 | 溶血性貧血+血小板減少+急性腎不全 |
| 6 | EHECへの抗菌薬 | 原則使用しない(志賀毒素の大量放出でHUS悪化) |
| 7 | 空気感染する疾患 | 麻しん・水痘・肺結核(風しん・ムンプスは飛沫感染) |
| 8 | レジオネラの第一選択薬 | ニューキノロン系(細胞内寄生菌のため) |
| 9 | HIV治療の原則 | 3剤以上の多剤併用。CD4数にかかわらず全例治療 |
| 10 | ライ症候群 | 肝障害+急性脳症+低血糖。小児へのアスピリン禁忌 |
📝 国試過去問チェック
第111回 問61(C.ディフィシル偽膜性大腸炎)
クロストリディオイデス・ディフィシルによる偽膜性大腸炎の治療に用いられるのはどれか。1つ選べ。
- クラリスロマイシン
- レボフロキサシン
- アモキシシリン
- メトロニダゾール
- ミノサイクリン
解答と解説を見る
正答:4
4✅ メトロニダゾールはニトロイミダゾール系抗菌薬で、嫌気性菌に強い活性を示す。C.ディフィシルは偏性嫌気性菌であるため有効。軽〜中等症の第一選択。1❌ クラリスロマイシン(マクロライド系)→ C.ディフィシルに無効。2❌ レボフロキサシン(フルオロキノロン系)→ むしろC.ディフィシル感染の誘因となる広域抗菌薬。3❌ アモキシシリン(βラクタム系)→ 無効。5❌ ミノサイクリン(テトラサイクリン系)→ 無効。
第110回 問70(レジオネラ肺炎)
レジオネラ肺炎に対して最も有効性が期待できる抗菌薬はどれか。1つ選べ。
- シプロフロキサシン
- タゾバクタム・ピペラシリン
- メロペネム
- アミカシン
- バンコマイシン
解答と解説を見る
正答:1
1✅ シプロフロキサシン(フルオロキノロン系)は細胞内移行に優れ、細胞内寄生菌であるレジオネラに有効。第一選択。2❌ タゾバクタム・ピペラシリン(βラクタム系)→ 細胞内に入れないため無効。3❌ メロペネム(カルバペネム系)→ 同様に細胞内移行不良で無効。4❌ アミカシン(アミノグリコシド系)→ 細胞内移行不良で無効。5❌ バンコマイシン → グラム陽性菌のみに有効。レジオネラはグラム陰性菌のため無効。
第109回 問167(HIV感染症の治療)
HIV感染症の治療に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- CD₄陽性リンパ球数が基準範囲内であっても、抗レトロウイルス療法が必要である
- 抗レトロウイルス療法では、抗HIV薬の単剤で治療を開始する
- HIV-RNA量が減少した場合には、抗HIV薬を休薬する
- 免疫再構築症候群は、AIDSやHIV感染症の治療中にみられる炎症を主体とする病態である
- 抗レトロウイルス療法を行っても、生命予後は改善しない
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正答:1・4
1✅ 現在のガイドラインではCD4数にかかわらずすべてのHIV感染者に抗レトロウイルス療法(ART)を推奨。4✅ 免疫再構築症候群(IRIS):ART開始後に免疫機能が回復する過程で、潜在感染症(CMV・結核等)に対する炎症反応が過剰になる病態。2❌ 抗HIV薬は3剤以上の多剤併用(cART)が原則。単剤では耐性化する。3❌ HIV-RNA量が減少しても休薬しない(継続が必須。休薬でウイルスが反発し耐性化)。5❌ ARTにより生命予後は著明改善。現在のHIV感染者の平均余命はほぼ一般人と同等。
