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⚛️ 物理

NMR分光法(核磁気共鳴)

📅 2026年5月19日
📖 この記事でわかること
  • NMRの原理(核スピン・ゼーマン分裂・共鳴条件)を説明できる
  • 化学シフト(δ値)の大小と電子密度の関係を説明できる
  • 積分値がプロトン数の比を表すことを説明できる
  • n+1則でシグナルの分裂数を計算できる
  • CDCl₃・TMS・重水添加の意味を説明できる
目次
  1. 1.NMRの原理
  2. 核スピンとゼーマン分裂
  3. 測定対象核の比較
  4. 2.化学シフト(δ値)
  5. ¹H NMR 代表的な化学シフト
  6. 3.積分値とプロトン数
  7. 4.スピン-スピン結合(n+1則)
  8. 例:エタノール(CH₃CH₂OH)
  9. 5.医薬品分析への応用
  10. 6.国試頻出まとめ
  11. 7.国試過去問チェック

🔬 NMRの原理

核スピンとゼーマン分裂

スピン量子数(I)が 0 でない原子核(¹H、¹³C、¹⁹F、³¹P など)は磁気モーメントをもつ。

外部磁場(B₀)をかけると、エネルギー準位が 2I+1 個に分かれる。

スピン量子数 I = 1/2 の原子核(¹H, ¹³C など)は外部磁場で 2 つのエネルギー準位に分かれる
→ これを ゼーマン分裂 という

この 2 準位間のエネルギー差に対応する電磁波(ラジオ波)を吸収する現象が 核磁気共鳴(NMR)

測定対象核の比較

測定核 感度 用途
¹H 高い 水素の化学環境・官能基・骨格推定
¹³C 低い(天然存在比 1.1%) 炭素骨格を直接観測
¹⁹F 高い フッ素含有薬物の分析
³¹P 高い 核酸・リン脂質の分析

📊 化学シフト(δ値)

周囲の電子密度によって共鳴周波数が変化する。この変化を 化学シフト(δ)[ppm] で表す。

基準物質:TMS(テトラメチルシラン)→ δ = 0 ppm

電子密度が低い(非遮蔽)→ 低磁場(δ 大きい)
電子密度が高い(遮蔽される)→ 高磁場(δ 小さい)

¹H NMR 代表的な化学シフト

プロトンの種類 δ (ppm) 遮蔽・非遮蔽
TMS(基準) 0
R-CH₃(アルキル基) 0.9〜1.5 高磁場(遮蔽される)
R-O-CH₃(メトキシ基) 3.3〜3.5 中程度
Ar-H(芳香族) 6.5〜8.5 低磁場(非遮蔽・環電流効果)
R-CHO(アルデヒド) 9〜10 非常に低磁場
R-COOH(カルボキシル) 10〜12 最も低磁場

⚠️ 芳香族プロトンが低磁場に現れる理由:芳香族の環電流効果(ring current effect)により、π電子が磁場を増幅し、プロトンを非遮蔽化する。


🔢 積分値とプロトン数

¹H NMRでは、シグナルの積分値(面積)がプロトン数の比に比例する。

積分値 = プロトン数の「比」(絶対数ではない)
例:積分比 3:2:1 → CH₃ : CH₂ : CH(比率)

⚠️ CDCl₃中の「×印」:重クロロホルム(CDCl₃)溶媒中に微量含まれる CHCl₃ に由来するシグナルが δ ≈ 7.26 ppm に現れる。これは試料のシグナルではなく、問題文では「×」で示される。


🔗 スピン-スピン結合(n+1則)

隣接する炭素上の水素(等価なH)の数 n によってシグナルが分裂する。

分裂数 = n + 1

隣のH数(n) 分裂数 名称
0 1本 一重線(singlet, s)
1 2本 二重線(doublet, d)
2 3本 三重線(triplet, t)
3 4本 四重線(quartet, q)

例:エタノール(CH₃CH₂OH)

  • CH₃(3H):隣の CH₂ が 2H → 2+1 = 三重線(t)
  • CH₂(2H):隣の CH₃ が 3H → 3+1 = 四重線(q)
  • OH(1H):水素結合のため分裂が観測されにくい(重水添加で消失)

重水(D₂O)添加で消えるシグナル = 活性プロトン(OH, NH, SH など)


💊 医薬品分析への応用

用途 内容
構造確認 合成した医薬品・原薬の構造が正しいか確認
純度試験 不純物・異性体のシグナルを検出
代謝物同定 体内で生じた構造変化の検出
日本薬局方収載 ¹H NMR が確認試験として収載されている品目あり

IR(赤外)1770 cm⁻¹ 付近の強い吸収 → 酸無水物や特殊なエステルの C=O 伸縮振動(通常のエステル ~1735 cm⁻¹ より高波数)


📋 国試頻出まとめ

# ポイント 内容
1 ゼーマン分裂 I=1/2 の核が外部磁場で 2 つのエネルギー準位に分かれる現象
2 化学シフト 低磁場(δ大)= 非遮蔽 / 高磁場(δ小)= 遮蔽される
3 積分値 シグナル面積 ∝ プロトン数の比
4 n+1則 隣のHが n 個 → n+1 本に分裂
5 TMS 基準物質(δ = 0 ppm)
6 CDCl₃の×印 δ≈7.26 に溶媒由来(CHCl₃)のシグナル
7 重水(D₂O)添加 OH・NH・SHなど活性プロトンのシグナルが消失
8 芳香族H δ 6.5〜8.5 ppm(環電流効果で低磁場)
9 ¹H vs ¹³C ¹H は感度高・積分値でプロトン数比がわかる。¹³C は炭素骨格を直接観測

📝 国試過去問チェック

第110回薬剤師国家試験 問4(必須)

スピン量子数が1/2である原子核が外部磁場の中に置かれると、そのエネルギーが2つのエネルギー準位に分かれることを表しているのはどれか。1つ選べ。

1. 化学シフト

2. McLafferty(マクラファティー)転位

3. ラジカル開裂

4. 超微細分裂

5. ゼーマン分裂

解答と解説を見る

正解:5

5○ ゼーマン分裂(Zeeman splitting):スピン量子数 I = 1/2 の原子核(¹H, ¹³C など)が外部磁場に置かれると、エネルギーが 2(= 2I+1)つの準位に分かれる現象。これがNMR(核磁気共鳴)の原理。正しい。

1✗ 化学シフト(δ)は、周囲の電子密度によって共鳴周波数がずれる現象(ゼーマン分裂後の話)。「エネルギー準位が2つに分かれること」ではない。

2✗ McLafferty転位は、質量分析(MS)においてγ位のH転位を伴う特徴的なフラグメント化反応。NMRとは無関係。

3✗ ラジカル開裂は、質量分析のフラグメント化機構の一つ。NMRとは無関係。

4✗ 超微細分裂(hyperfine splitting)は、電子スピン共鳴(ESR)でラジカルの核スピンによりシグナルが分裂する現象。NMRのゼーマン分裂とは異なる。


第108回薬剤師国家試験 問109(一般)

ある化合物の ¹H-NMR スペクトル(400 MHz、CDCl₃、基準物質はTMS)と各シグナルの積分比(下表)、および IR スペクトル(1770 cm⁻¹ 付近に強い吸収)から、この化合物の構造式を選ぶ問題。なお、×印のシグナルは CDCl₃ 中に含まれる CHCl₃ のプロトンに由来する。

シグナル 化学シフト 積分比
δ 7.1〜7.2(芳香族) 3
δ 7.1〜7.2(芳香族) 3
δ 1.2〜1.3 2
δ 2.6〜2.7 2
δ 1.2〜1.3 2

※選択肢は構造式のため、原典(108回試験問題)を参照のこと。

解答と解説を見る

正解:1

NMRスペクトルの読み取りポイント:

① IR 1770 cm⁻¹:通常のエステルの C=O 伸縮(~1735 cm⁻¹)より高波数。酸無水物(~1850 + 1770 cm⁻¹)やアリールエステル・ビニルエステルなど、カルボニルが活性化された C=O を示す。

② NMR 積分比とシグナル解釈

  • ア・イ(各3H、δ 7.1〜7.2):2 種類の芳香族プロトン → 芳香環上のH
  • ウ・エ・オ(各2H):脂肪族の CH₂ グループ3種 → 合計6H の脂肪族
  • 総プロトン数:6(芳香族)+ 6(脂肪族)= 12H

③ 構造推定の流れ

  • IR から高活性 C=O が存在する(1770 cm⁻¹)
  • 芳香族 6H(2種 × 3H ずつ) + 脂肪族 CH₂ × 3 の骨格
  • これらを満たす構造(選択肢1)が正答

×印(δ ≈ 7.26)は CDCl₃ 由来のシグナル → 試料のシグナルではない


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