📦 薬物の分布と分布容積(Vd)
分布容積の定義と計算式
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| VP | 血漿容積(約3 L) |
| VT | 組織容積(約40 L) |
| fu | 血漿中非結合率(遊離型の割合) |
| fu,t | 組織中非結合率 |
Vdと分布の解釈:
| Vd | 意味 |
|---|---|
| < 5 L | 血管内にほぼ留まる(大分子・高タンパク結合) |
| 5〜20 L | 細胞外液に分布 |
| > 40 L | 組織・細胞内に広く分布 |
| >> 体重 | 脂肪組織・特定臓器に蓄積(アミオダロン: 60 L/kg) |
✅ 血漿タンパク結合率が高い→血漿に留まる→Vd小さい。逆に組織結合が強い→Vd大きい
Vdに影響する因子
| 要因 | Vdへの影響 |
|---|---|
| 血漿アルブミン低下(肝硬変・ネフローゼ) | 遊離型↑→組織分布↑→Vd増大 |
| 加齢 | 体脂肪率↑→脂溶性薬物Vd増大 |
| 肥満 | 体脂肪↑→脂溶性薬物Vd増大 |
| 小児 | 体水分量多い→水溶性薬物の体重当たりVd大 |
| 心不全 | 腎血流↓→腎排泄↓(Vdへの影響は間接的) |
🩸 血漿タンパク結合
主要な血漿タンパク質
| タンパク質 | 結合する薬物 | 炎症時の変化 | 代表薬物 |
|---|---|---|---|
| アルブミン | 酸性薬物・中性薬物 | 低下(負の急性期タンパク) | ワルファリン・フロセミド・NSAIDs |
| α₁-酸性糖タンパク質(AGP/AAG) | 塩基性薬物 | 増加(急性期タンパク) | プロプラノロール・リドカイン・三環系抗うつ薬 |
| リポタンパク | 脂溶性薬物 | — | アムホテリシンB・シクロスポリン |
⚠️ プロプラノロールが結合するのはアルブミンではなくα₁-酸性糖タンパク質(塩基性薬物)
タンパク結合率の測定法
| 方法 | 原理 | 特徴 |
|---|---|---|
| 限外ろ過法 | 遠心でタンパク質を保持→フィルター通過液(遊離型)を測定 | 簡便・迅速 |
| 平衡透析法 | 半透膜で血漿と緩衝液を隔てて平衡 | 精度が高い |
平衡透析法の計算:
- [B]:血漿側 = タンパク結合型 + 遊離型
- [C]:緩衝液側 = 遊離型のみ(半透膜通過)
- タンパク結合濃度 = [B] − [C]
Scatchardプロット
| 項目 | 値 | 競合阻害時 |
|---|---|---|
| Y切片(r) | n(結合部位数) | 変化しない |
| 傾き | −1/Kd(右下がりの直線) | 傾きが緩やかになる(Kd↑) |
| X切片 | n(結合部位数) | 左に移動(0に近づく) |
✅ ScatchardプロットはX軸にr/[D]f、Y軸にrをとった右下がりの直線。Y切片=n(結合部位数)、傾き=−1/Kd
⚗️ 薬物代謝酵素CYP450
細胞内局在(分画遠心法)
| 遠心条件 | 画分 | 含まれる成分 | 代謝酵素 |
|---|---|---|---|
| 600×g 沈殿 | 核画分 | 細胞核・細胞膜断片 | — |
| 9,000×g 沈殿 | ミトコンドリア画分 | ミトコンドリア・リソソーム | MAO |
| 105,000×g 沈殿 | ミクロソーム画分 | 小胞体(SER) | CYP450・UGT |
| 105,000×g 上清 | サイトゾル | サイトゾル | NAT・SULT |
✅ CYP450は**滑面小胞体(SER)**に局在 = ミクロソーム画分に含まれる
代謝相の区別
| 代謝相 | 反応 | 主な酵素 |
|---|---|---|
| 第Ⅰ相 | 酸化・還元・加水分解 | CYP450・FMO・ADH・MAO・カルボキシルエステラーゼ |
| 第Ⅱ相 | 抱合(グルクロン酸・硫酸・グリシン・アセチル・グルタチオン) | UGT・SULT・NAT・GST |
✅ UGT(UDP-グルクロン酸転移酵素)=第Ⅱ相反応(抱合)。小胞体に局在
CYP450主要分子種
| CYP | 肝発現割合 | 主な基質 | 阻害薬(代表) | 誘導薬(代表) |
|---|---|---|---|---|
| CYP3A4 | 約30〜40%(最多) | ベンゾジアゼピン・シクロスポリン・HMG-CoA還元酵素阻害薬 | クラリスロマイシン・イトラコナゾール | リファンピシン |
| CYP2D6 | 約2〜5%(少ない)※ | コデイン・β遮断薬・三環系抗うつ薬 | パロキセチン・フルオキセチン | — |
| CYP2C9 | 約15〜20% | ワルファリン・フェニトイン・NSAID | — | リファンピシン |
| CYP1A2 | 約10〜15% | テオフィリン・カフェイン | フルボキサミン | タバコ |
| CYP2C19 | 約5〜10% | オメプラゾール・クロピドグレル | オメプラゾール | リファンピシン |
| CYP2E1 | 約5〜10% | アセトアミノフェン・エタノール | — | エタノール(慢性) |
✅ 発現量最多はCYP3A4。腸管(CYP3A4)にも存在→初回通過効果に関与 ※ CYP2D6は肝臓での発現量は少ない(約2〜5%)が、臨床使用薬の約20〜25%の代謝に関与する重要な酵素(発現量と代謝への寄与は別)
代謝酵素の遺伝子多型
| 酵素 | PM(低代謝)の日本人頻度 | 臨床的意義 |
|---|---|---|
| CYP2D6 | 約1〜3%(少ない) | PM:コデイン→モルヒネ変換↓→鎮痛不足。UM:モルヒネ過剰→呼吸抑制 |
| CYP2C19 | 約15〜20%(多い) | PM:オメプラゾールAUC↑・H. pylori除菌効果↑ |
| ALDH2 | 低活性型アレル保有者は日本人の約4割(ヘテロ接合体:活性低下、ホモ接合体:ほぼ欠損) | アセトアルデヒド蓄積→フラッシング・食道がんリスク |
| NAT2 slow | 約40〜50% | イソニアジド末梢神経障害リスク |
| TPMT | 約0.3% | アザチオプリン→6-MP蓄積→骨髄抑制(使用前に診断) |
代謝相互作用の重要例
| 相互作用 | 被影響薬 | 併用薬 | 機序 |
|---|---|---|---|
| シクロスポリン血中濃度低下 | シクロスポリン | リファンピシン | CYP3A4の誘導 |
| ノルトリプチリン血中濃度上昇 | ノルトリプチリン | パロキセチン | CYP2D6の阻害 |
| チザニジン血中濃度上昇(重篤低血圧) | チザニジン | フルボキサミン | CYP1A2の阻害 |
プロドラッグ
| プロドラッグ | 活性体 | 変換機構 | 目的 |
|---|---|---|---|
| カペシタビン | 5-FU | チミジンホスホリラーゼ(腫瘍内) | 腫瘍選択性 |
| カンデサルタンシレキセチル | カンデサルタン | 腸管での加水分解(CES) | 経口吸収改善 |
| バラシクロビル | アシクロビル | バリルエステラーゼ | 消化管吸収↑ |
| テガフール | 5-FU | CYP2A6 | 作用持続 |
| レボドパ | ドパミン | AADC(末梢) | BBB通過(LAT1利用) |
| テモカプリル | テモカプリラート | カルボキシルエステラーゼ(CES) | エステル型プロドラッグ |
🏥 腎クリアランスとイヌリン
腎排泄の3過程
糸球体ろ過(遊離型の低分子物質:タンパク結合型は通過しない)
+
尿細管分泌(能動輸送:P-gp・OAT・OCT等)
−
尿細管再吸収(脂溶性薬物:受動拡散)
=
尿中排泄
イヌリンの特殊性(GFR指標)
| 特性 | 内容 |
|---|---|
| 腎排泄 | 糸球体ろ過のみ(分泌・再吸収・代謝なし) |
| クリアランス | CLイヌリン = GFR |
| 濃度関係 | Cp ≒ C原尿 < C尿(水のみ再吸収で濃縮) |
✅ イヌリンは「ろ過のみ」だからGFRの測定指標。水だけ再吸収されてイヌリンは濃縮→C尿が最高
各物質の腎排泄過程
| 物質 | 糸球体ろ過 | 尿細管分泌 | 尿細管再吸収 |
|---|---|---|---|
| イヌリン | ◎ | × | × |
| クレアチニン | ◎ | 少量◯ | × |
| ゲンタマイシン | ◎ | ◯ | わずか |
| PAH | ◎ | ◎(大量) | × |
| グルコース(正常) | ◎ | × | ◎(ほぼ全量) |
クリアランスの計算
ゲンタマイシンの計算例(111回理論173):
- CLR = fe × CLtot で算出
- CLgf = fp × GFR で糸球体ろ過分を計算
- CLR > CLgf → 尿細管分泌あり
- CLnr(腎外CL)= CLtot − CLR → 腎障害前後で変化しない
OAT1・OAT3による尿細管分泌
- 近位尿細管の**基底側膜(血液側)**に発現
- 血液→細胞内への取り込み(OAT1・OAT3)
- 細胞→管腔への排出(MRP2等)
- 基質:メトトレキサート・フロセミド・プロスタグランジン
🧬 肝クリアランスとWell-stirredモデル
Well-stirredモデルの式
抽出率による支配因子の違い
| 肝抽出率 | 薬物例 | CL支配因子 | 近似式 |
|---|---|---|---|
| 高(> 0.7)flow-limited | ニカルジピン・プロプラノロール・リドカイン | 肝血流量(QH) | CLH ≈ QH |
| 低(< 0.3)capacity-limited | フェニトイン・テオフィリン・ワルファリン | タンパク結合(fu)・固有CL(CLint) | CLH ≈ fu × CLint |
✅ 低抽出率(CLint ≪ QH)のとき:CLH ≈ fu × CLint
定常状態の遊離型濃度への影響
| 条件 | 遊離型Cssへの影響 |
|---|---|
| 低抽出率薬でタンパク結合率変化(CLint一定) | 変わらない(代償機構) |
| 高抽出率薬でタンパク結合率変化 | 影響を受ける |
| 低抽出率薬でCLint変化 | 影響を受ける |
📚 国試頻出まとめ
| # | ポイント | キーワード |
|---|---|---|
| 1 | 限外ろ過法は血漿タンパク結合率の測定に用いる | 遠心→フィルター通過液=遊離型 |
| 2 | CYP450は**滑面小胞体(ミクロソーム画分)**に局在 | UGTも同様 |
| 3 | CYP3A4は肝CYPで発現量最多(約30〜40%)かつ腸管にも存在 | 初回通過効果に関与 |
| 4 | アルブミン→酸性薬物。α₁-AGP→塩基性薬物(プロプラノロール等) | 炎症時α₁-AGPは増加 |
| 5 | イヌリン:糸球体ろ過のみ→GFR指標。Cp≒C原尿<C尿(水再吸収で濃縮) | 再吸収・分泌なし |
| 6 | クレアチニン:ろ過+尿細管分泌あり。CCr > GFR | イヌリンCL=GFR |
| 7 | CYP2D6でコデイン→モルヒネ変換。PMは鎮痛不足、UMは呼吸抑制 | 遺伝子多型 |
| 8 | 高抽出率薬(EH>0.7)のCLHは肝血流量が支配。タンパク結合・CLintの変動の影響を受けにくい | flow-limited |
| 9 | 低抽出率薬(EH<0.3)のCLHはfu×CLintが支配。定常状態遊離型はCLint一定ならfu変動で変わらない | capacity-limited |
| 10 | OAT1・OAT3は近位尿細管基底側膜で血液→細胞方向に取り込む。プロベネシドで阻害→MTX蓄積 | 尿細管分泌 |
📝 国試過去問チェック
第111回 問43(限外ろ過法)
限外ろ過法を用いて算出される薬物パラメータはどれか。1つ選べ。
- 油/水分配係数
- 酸塩基解離定数
- 血球移行率
- 血漿タンパク結合率
- 全身クリアランス
解答と解説を見る
正答:4
1✗ 油/水分配係数:n-オクタノール/水系を用いた分配実験で測定
2✗ pKa:pH変化による紫外吸収変化・電位差測定
3✗ 血球移行率:全血/血漿の薬物濃度比から算出
4○ 限外ろ過法:遠心によりタンパク質を保持し、フィルター通過液(遊離型)の濃度を測定→結合率(%)を算出する
5✗ クリアランス:AUCや尿中排泄量から算出
第111回 問44・45(CYP局在・イヌリン濃度)
薬物代謝酵素シトクロムP450が局在する主な細胞内小器官はどれか。1つ選べ。
- エンドソーム
- ゴルジ体
- リソソーム
- 核
- 小胞体
解答と解説を見る
正答:5
1✗ エンドソーム:エンドサイトーシスで取り込んだ物質の処理
2✗ ゴルジ体:タンパク質の修飾・輸送
3✗ リソソーム:加水分解酵素(酸性環境でタンパク質分解)
4✗ 核:DNAの複製・転写
5○ CYP450は肝細胞・腸管粘膜上皮の**滑面小胞体(小胞体:ER)**に局在。UGT(グルクロン酸転移酵素)も小胞体に局在する。分画遠心法では105,000×g沈殿(ミクロソーム画分)として回収される。
第111回 問173(ゲンタマイシン腎クリアランス計算)
ゲンタマイシン(体重60 kg患者)の薬物動態パラメータ(CLtot=75 mL/min、GFR=62.5 mL/min、fe=0.92、fp=0.90)。急性腎障害後(CLtot=40 mL/min、GFR=27.8 mL/min、fe=0.85)のクリアランスに関する正しい記述はどれか。2つ選べ。
- 腎障害前の糸球体ろ過クリアランスは62.5 mL/minである
- 腎障害の有無によらず、ゲンタマイシンの腎排泄には尿細管分泌が関与する
- 腎障害の有無によらず、ゲンタマイシンは尿細管から再吸収されやすい
- ゲンタマイシンの腎クリアランスは腎障害によって変化しない
- ゲンタマイシンの腎外クリアランスは腎障害の前後でほぼ一定である
解答と解説を見る
正答:2, 5
【計算】
腎障害前:CLR = fe×CLtot = 0.92×75 = 69.0 mL/min、CLgf = fp×GFR = 0.90×62.5 = 56.25 mL/min
CLR(69)>CLgf(56.25)→ 尿細管分泌あり
CLnr(腎外)= CLtot − CLR = 75 − 69 = 6.0 mL/min
腎障害後:CLR = 0.85×40 = 34.0 mL/min、CLgf = 0.90×27.8 = 25.0 mL/min
CLR(34)>CLgf(25)→ 尿細管分泌あり
CLnr = 40 − 34 = 6.0 mL/min
1✗ 糸球体ろ過CL = fp×GFR = 0.90×62.5 = 56.25 mL/min(62.5ではない。fp=0.90)
2○ 腎障害前後ともCLR>CLgf→尿細管分泌が関与
3✗ CLR>CLgf(分泌あり)→再吸収は少ない(アミノグリコシドは親水性で再吸収されにくい)
4✗ CLR:69→34 mL/min(腎障害で変化する)
5○ CLnr = 6.0 mL/min(前後変化なし)
