🔄 相変化の種類
物質が固体・液体・気体の間で変化することを**相変化(相転移)**という。
| 変化の方向 | 名称 | エネルギー |
|---|---|---|
| 固体 → 液体 | 融解 | 吸熱 |
| 液体 → 固体 | 凝固 | 発熱 |
| 液体 → 気体 | 蒸発(気化) | 吸熱 |
| 気体 → 液体 | 凝縮 | 発熱 |
| 固体 → 気体 | 昇華 | 吸熱 |
| 気体 → 固体 | 昇華凝結(凝結) | 発熱 |
✅ 昇華の例: ドライアイス(CO₂)・ヨウ素(I₂)・ナフタレン・カンファー 低圧下では液体を経由せず固体→気体に直接変化する
📊 状態図(相図)の読み方
状態図は**温度(横軸)と圧力(縦軸)**に対して、どの相が安定かを示した図。
| 点・線 | 名称 | 意味 |
|---|---|---|
| 三重点 | Triple point | 固体・液体・気体の3相が共存する唯一の点 |
| 臨界点 | Critical point | 液体と気体の区別がなくなる点 |
| 融解曲線 | 固体-液体の境界線 | 圧力変化による融点の変化 |
| 蒸気圧曲線 | 液体-気体の境界線 | 沸点の圧力依存性 |
| 昇華曲線 | 固体-気体の境界線 | 固体の蒸気圧 |
水の特徴点:
| 特徴点 | 温度 | 圧力 |
|---|---|---|
| 三重点 | 273.16 K(0.01℃) | 611.7 Pa(約0.006 atm) |
| 臨界点 | 647 K(374℃) | 22.1 MPa(218 atm) |
✅ 三重点は温度・圧力とも一定の「点」(線や面ではない) 三重点を下回る圧力では液体が存在できず、固体 ⇌ 気体(昇華)のみ起こる
💧 水の状態図の特徴
⚠️ 水の融解曲線は「右下がり(負の傾き)」!ほとんどの物質と逆!
| 物質 | 融解曲線の傾き | 圧力をかけると |
|---|---|---|
| 水(H₂O) | 負(右下がり) | 融点が下がる(氷が溶ける) |
| ほとんどの物質 | 正(右上がり) | 融点が上がる |
理由: 氷は水より密度が低い(体積が大きい)。圧力をかけると体積の小さい液体(水)の方が安定になるため融点が下がる。
✅ スケートの刃で氷が溶けるのもドナン効果ではなくこの原理(圧力→融点低下)
📐 クラウジウス・クラペイロンの式
蒸気圧の温度依存性を表す式:
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| P₁, P₂ | 温度 T₁, T₂ での蒸気圧(Pa) |
| ΔH_vap | 蒸発エンタルピー(正の値、J/mol) |
| R | 気体定数(8.314 J/mol·K) |
| T₁, T₂ | 絶対温度(K) |
✅ ΔH_vap が大きい = 蒸気圧の温度依存性が大きい(温度を少し上げると蒸気圧が大きく上昇)
計算のポイント:
→ ln P を 1/T に対してプロットすると直線になり、傾き = −ΔH_vap/R
計算例: 水のΔH_vap = 40.7 kJ/mol、100℃(373 K)の蒸気圧 = 101.3 kPa。80℃(353 K)の蒸気圧を求める。
⚗️ 超臨界流体と製剤への応用
臨界点(温度・圧力ともに臨界値以上)を超えた状態が超臨界流体。
| 性質 | 液体 | 超臨界流体 | 気体 |
|---|---|---|---|
| 密度 | 高い | 中間(液体に近い) | 低い |
| 拡散係数 | 低い | 高い(気体に近い) | 高い |
| 粘度 | 高い | 低い | 非常に低い |
| 表面張力 | あり | なし | なし |
超臨界CO₂が製剤に使われる理由:
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 穏やかな条件 | 臨界温度 31℃・臨界圧力 7.4 MPa(低温処理可能) |
| 安全性 | 非毒性・不燃性・安価 |
| 残留なし | 圧力を下げるだけで気化して除去(残留溶媒問題なし) |
製剤・分析への応用:
| 用途 | 内容 |
|---|---|
| 超臨界流体抽出(SFE) | 天然物からの有効成分抽出(カフェイン除去等) |
| 微粒子化(RESS法) | 超臨界CO₂に溶解→急減圧→微粒子析出 |
| SAS法 | 超臨界CO₂を貧溶媒として使用 |
| SFC(超臨界流体クロマトグラフィー) | キラル分離・脂溶性物質の分析 |
❄️ 昇華と医薬品
| 用途 | 内容 |
|---|---|
| 凍結乾燥(フリーズドライ) | 氷を昇華させて水分除去 → 注射用粉末製剤・生物製剤の保存 |
| ヨウ素(I₂) | 常温で昇華しやすい(ヨードチンキの保管に注意) |
| ドライアイス(CO₂固体) | 常圧下で液体にならず昇華(三重点が5.1 atm以上) |
| カンファー(樟脳) | 常温で昇華(防虫剤・外用薬) |
✅ 凍結乾燥の原理: 水分を含む試料を凍結 → 三重点以下の低圧に減圧 → 氷を直接昇華させる 液体を経由しないため、熱に不安定なタンパク質・抗体医薬品の製造に最適
📋 国試頻出まとめ
| # | テーマ | 重要ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 昇華の定義 | 固体 → 気体(液体を経由しない);例:ドライアイス・ヨウ素 |
| 2 | 水の融解曲線 | 負の傾き(圧力↑ → 融点↓)← 他の物質と逆 |
| 3 | 水の三重点 | 0.01℃・611.7 Pa で固液気が共存 |
| 4 | 三重点以下の圧力 | 液体が存在できない → 固体 ⇌ 気体(昇華)のみ |
| 5 | 臨界点以上 | 超臨界流体(液体・気体の区別なし) |
| 6 | 超臨界CO₂ | 臨界温度 31℃・臨界圧力 7.4 MPa;製剤・抽出・SFCに利用 |
| 7 | クラウジウス・クラペイロン | ln(P₂/P₁) = −ΔH_vap/R × (1/T₂ − 1/T₁);ln P と 1/T は直線関係 |
| 8 | 凍結乾燥 | 昇華を利用;タンパク質・生物製剤の製造に使用 |
| 9 | 超臨界流体の性質 | 密度は液体に近く、拡散係数は気体に近い;表面張力なし |
| 10 | 融解曲線の傾き理由 | 氷の密度 < 水の密度 → 圧力をかけると水(密度大)が安定 |
📝 国試過去問チェック
第108回薬剤師国家試験 問1
下図は水の状態図である。アからイへの矢印が表す相変化はどれか。1つ選べ。
1. 融解
2. 凝縮
3. 昇華
4. 凝固
5. 蒸発
解答と解説を見る
正解:2
アは気体領域(低圧)、イは液体領域(高圧)。温度一定のまま圧力を増加させると、蒸気圧曲線を横切って気体→液体に変化する。これが凝縮。
1✗ 融解:固体→液体。 3✗ 昇華:固体→気体。 4✗ 凝固:液体→固体。 5✗ 蒸発:液体→気体(凝縮の逆)。
第104回薬剤師国家試験 問3
図は水の状態図である。点Tにおけるギブスの相律の自由度(F)の値として、正しいのはどれか。1つ選べ。
1. 0
2. 1
3. 2
4. 3
5. 4
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正解:1(F = 0)
点Tは固体・液体・気体の3相が共存する三重点。ギブスの相律より:
| 記号 | 値 | 意味 |
|---|---|---|
| C(成分数) | 1 | 水のみ |
| P(相数) | 3 | 固体・液体・気体が共存 |
| F(自由度) | 0 | 温度も圧力も変えられない |
自由度0 = 温度・圧力が完全に固定された唯一の点(0.01℃・611.7 Pa)。
2✗ F=1 は2相共存の場合(例:蒸気圧曲線上の任意の点)。 3✗ F=2 は1相のみの場合(例:気体単独の領域)。 4✗ 臨界点を超えると液体と気体の区別がなくなり、超臨界流体になる(共存ではない)。
第110回薬剤師国家試験 問2
クラウジウス・クラペイロンの式に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1. ln P を温度 T に対してプロットすると直線になる
2. ln P を 1/T に対してプロットすると直線になり、その傾きは −ΔHvap/R である
3. 蒸発エンタルピーが大きいほど、温度変化による蒸気圧の変化が大きい
4. 沸点では蒸気圧は必ず101.3 kPaである
5. 融解曲線の傾きも同じ式で表される
解答と解説を見る
正解:2, 3
2○ ln P = −(ΔHvap/R)×(1/T) + const → ln P と 1/T の間に直線関係が成立。傾き = −ΔHvap/R。
3○ ΔHvapが大きい物質ほど、温度変化に対する蒸気圧の変化(傾き)が大きい。
1✗ **ln P と T(温度そのもの)**では直線にならない。直線になるのは ln P と 1/T の関係。
4✗ 沸点の定義は「蒸気圧 = 外圧」のとき。標準沸点では外圧 = 101.3 kPa だが、高山では外圧が低いため沸点が下がる(100℃未満で沸騰)。
5✗ クラウジウス・クラペイロンの式は**蒸気圧曲線(液体-気体の境界)**に関するもの。融解曲線(固体-液体)には別の式(クラペイロンの式)が使われる。
第107回薬剤師国家試験 問2
超臨界CO₂に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1. CO₂の臨界温度は約31℃、臨界圧力は約7.4 MPaである
2. 超臨界CO₂の密度は気体に近く、拡散係数は液体に近い
3. 超臨界CO₂は毒性が低く、圧力を下げるだけで除去できる
4. 超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)では固定相に超臨界CO₂が使われる
5. 超臨界CO₂を用いた微粒子化では、薬物を超臨界CO₂に溶解後に急速減圧してRESSを行う
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正解:1, 3
1○ CO₂の臨界温度 31.1℃・臨界圧力 7.38 MPa。室温に近い穏やかな条件が製剤に有利。
3○ CO₂は非毒性・不燃性で安価。圧力を下げると気化して残留しない(残留溶媒問題なし)。
2✗ 超臨界流体の密度は液体に近く、拡散係数は気体に近い(記述が逆)。
4✗ SFCでは超臨界CO₂が移動相として使われる(固定相ではない)。
5✗ RESS法(Rapid Expansion of Supercritical Solution)の説明は正しいが、選択肢1・3が優先的な正解。SAS法(超臨界貧溶媒法)は薬物を有機溶媒に溶解し超臨界CO₂を貧溶媒として使用する別の方法。
第106回薬剤師国家試験 問1
凍結乾燥に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1. 凍結乾燥では水分を蒸発(液体→気体)させて除去する
2. 凍結乾燥では水の三重点以下の低圧にして氷を昇華させる
3. 凍結乾燥品は吸湿性が高いため、密封容器で保存する
4. 凍結乾燥法はタンパク質・抗体医薬品の製造には使えない
5. 凍結乾燥では高温処理が必要なため、熱に不安定な物質には適さない
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正解:2, 3
2○ 凍結乾燥では試料を凍結後、**三重点以下の低圧(高真空)にして氷を昇華(固体→気体)**させる。液体を経由しないため熱ダメージがない。
3○ 凍結乾燥品は多孔質で表面積が大きく吸湿性が高い。再溶解は容易だが、密封容器で保存が必要。
1✗ 凍結乾燥は**昇華(固体→気体)**による水分除去。蒸発(液体→気体)ではない。
4✗ 凍結乾燥は低温・液体を経由しないため、タンパク質・抗体・ワクチンなどの熱に不安定な生物製剤に広く使用されている。
5✗ 凍結乾燥は低温(凍結状態)で処理する。高温処理は不要で、むしろ熱に不安定な物質に最適。
